ひでやん

バリー・リンドンのひでやんのレビュー・感想・評価

バリー・リンドン(1975年製作の映画)
4.1
完璧主義のキューブリックが、18世紀のヨーロッパを鮮やかに再現して描く、一人の男の半生。

アイルランドの農家に生まれ、英国貴族に成り上がっていく男レドモンド・バリー。その栄達を第1部で描き、第2部で転落が描かれる。嫉妬による決闘がすべての始まりとなり、波乱に満ちた人生を歩み出すバリー。

ナレーションの声は登場人物の誰でもない第三者のため、物語の中に入り込むのではなく、美しい絵本を見るように外側から物語を眺める感覚だった。衣装デザイン、美術、ロケ、蝋燭の光だけの撮影など、本物に拘った当時の再現が素晴らしい。

印象的だったのはズームアウトの多用。場面転換の度にそれがあり、バストショットからカメラを動かさずにロングショットへと移行。そのズームアウトが終わり、カメラが固定された時に完成される絵画的な構図がいちいち美しい。

金を求めた男と愛を求めた女。華やかな貴族の暮らしに漂うのは虚無感で、嘘や見栄、憎悪や欲望という人間の醜さが渦巻く世界だった。レディー・リンドンの虚ろな瞳がなんとも哀れで、彼女が一番不幸だったように思う。

善悪も美醜も、あの世では皆同じだとさ、おしまい。そう言って絵本をパタンと閉じられた気分だった。
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