耶馬英彦

ザ・プレデターの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

ザ・プレデター(2018年製作の映画)
2.0
 多くのアメリカのアクション映画では若い父親が活躍する。最後は家族の笑顔で終わるパターンだ。テレビドラマの水戸黄門やドクターXが飽きられないように、このパターンも飽きられることはない。
 本作品も例に洩れず、若い父親である軍人が主人公だ。そして子供は自閉症のサバンである。最近のアメリカ映画にはこういう設定が多い。穿った見方をすれば、弱者を守る軍人という図式は国家主義的な共感を得やすく、それがそのまま興業収入に直結するのかもしれない。
 ただこの映画については、監督の悪趣味というか悪乗りみたいな要素があって、アクション映画というよりもスラップスティック映画に近い。だからシュワちゃんが主演した第一作に登場したプレデターの圧倒的な強さや得体の知れぬ恐ろしさは、この作品にはない。
 幽霊の正体見たり枯れ尾花ではないが、人知の及ばぬ敵は常に恐ろしいが、正体がわかってしまえば恐ろしさは半減どころか、十分の一以下になってしまう。本作品がまさにこれで、プレデターをジョークにするためには相対化する必要があり、相対化するためには人知の対象にするしかない。簡単に言えば、ヒグマやホッキョクグマに素手で立ち向かうレベルである。たしかにヒグマもホッキョクグマも凶暴で恐ろしいが、正体がわかっているだけに不気味さはない。心の底から恐怖する相手ではないのだ。本作品のプレデターはヒグマと同じレベルの、なんとも迫力のないプレデターになってしまった。
 それに対して、プレデターの武器の破壊力は桁違いで、グロかったりやりすぎたりする場面がしばしば出現するのも露悪趣味的でどうかと思う。他人が酷い目に遭っても平気というのは、他国民を同じ人間として扱わない国家主義者と同じ精神構造だ。戦前の鬼畜米英という言葉が国家主義者たちの精神構造を如実に示している。日本を神の国と呼んだ、サメの脳みそと呼ばれた元首相などが、頭の悪い国家主義者の代表である。本作品は国家主義の親子が活躍するという、なんともおぞましい作品で、その他大勢の兵士たち、市民たちの死は一顧だにされない。不寛容な全体主義そのものである。こういう映画が作成されるところがアメリカという国の現代の様相を露呈していると考えていい。
 世界観はおぞましい、プレデターは怖くない、主人公は国家主義者と、いいところのない映画だったが、CGの技術は大したもので、アクションの迫力だけは評価に値する。
耶馬英彦

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