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王の運命 歴史を変えた八日間のmaverickのレビュー・感想・評価

4.3
2015年の韓国映画。主演はソン・ガンホと、ユ・アイン。李氏朝鮮第21代国王の英祖と、その息子である荘献世子との確執を描いた物語。観客動員数624万人を記録し、第52回百想芸術大賞で大賞を受賞した。


韓国の歴史もので、この二人を題材にした作品は数多い。英祖とその孫である正祖が名君と呼ばれる一方で、非業の死を遂げた荘献世子は不運の人物として有名だ。その経緯は様々な説で検証され、本作に関しても実に興味深い描き方がされている。親の期待通りに育たないことで勝手に愛想を尽かされた息子の悲しい物語。才能溢れる子であったにも関わらず、それを認められなかった。親の愛情を受けない子がどうなるか。悲しみ、やがてすさんでいく様に胸が苦しくなる。本作に関して言えば英祖は毒親。親子の確執はどのようにして大きくなったのか。歴史を通して子育ての難しさを考えさせられる。

英祖を演じるのはソン・ガンホ。コミカルさを封印し、威厳ある王に徹している。王としての貫禄を感じさせながらも、彼が演じる英祖は実に人間臭い。細かいことにこだわる小心者だし、自分勝手さが目立つ。王である前に一人の未熟な人間なのだと、そう感じさせるのはソン・ガンホの上手さである。

父との関係性に翻弄させられる息子の思悼(荘献世子)を演じたユ・アイン。彼が演じるからこそ、この人物の悲劇さがより伝わる。武芸に秀で、芸術への高い才能を持つ容姿端麗な若君。優秀な家臣も多数おり、政治の手腕もある。それなのに父である王に疎まれ、その絶望から精神を病んでゆく。父親ももちろんだが、なぜ周りがもっと彼の悲しみを分かってやれなかったのか。あまりにも可哀想だ。嘆き苦しみ、狂乱するのも痛々しい程に理解出来た。涙を誘う熱演ぶりは見事だ。

英祖の継母である仁元王后を演じるのは『ファム・ファタール』のキム・ヘスク。思悼の正室は『箪笥』のムン・グニョン。英祖の寵愛をうけた側室を『パラサイト 半地下の家族』のパク・ソダムが演じる。実力派俳優が多数結集した歴史大作映画として見応え十分。ちなみにユ・アインは第36回青龍映画賞の主演男優賞を受賞。母を演じたチョン・ヘジンは同賞の助演女優賞を受賞。キム・ヘスクは第52回大鐘賞で助演女優賞を。監督のイ・ジュニクを含め、2015年度の様々な賞を本作が多数獲得している。それらが本作が上質たる証明となっている。


悲しき歴史の物語。2014年の『王の涙 -イ・サンの決断-』で主演のヒョンビンが演じた正祖(イ・サン)は、荘献世子の息子。本作でも子役が演じているが、その父子のエピソードも涙を誘う。父の無念を受け、イ・サンは名君として力を発揮する。韓国の歴史も学び甲斐があって面白い。これは名作であった。
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