シネマスナイパーF

透明人間のシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

透明人間(2019年製作の映画)
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まさに今の映画界トップの"アップグレード"職人と成り得る男、リー・ワネル
今後、この男の需要は確実に増えていくだろうし、早く次を観たい
間違いなくオススメの一本


まずド頭からして冴えてる
映画が始まって最初のアクションが「目を開ける」という行為
見えないことが怖い映画のスタートとしてこれ以上にカッコいいオープニングありますかって話ですよ

シンプルに怖い
自分がホラー苦手だってのもあるけども
特に前半はめちゃくちゃ怖い
アップグレードでもそうでしたが、リー・ワネルという男、カメラワークが超冴えてる
某番組で某映画監督が、モンスター映画で最も怖い描写のひとつとして「モンスター側の主観映像」をあげていましたが、それが多いんですよ
モンスター側になることでこれから起こることを予測できてしまい、その時点でその場面は超スリリングなサスペンスになる
しかも、透明人間という題材では非常に強みを発揮するものだと理解した上で使ってる、と思う
迫ってくる様子が襲われる側には分からないからね
何か起こす様子を定点で切り取った画の中で見せる場面も複数あり、こちらはこちらで第三者として怪奇現象を目撃したような普遍的恐怖がある
コンロのとことかすげー地味だけどすげー好き
もちろん被害者側の主観的恐怖も、何も無いはずの空間への視線という形でちゃんと表現
そしてそれらの恐怖を積み重ね続けた先に、三つの恐怖が一点に集約される名シーンが待っている
劇場で思わず声が出てしまっている人が何人かいらっしゃいました
ただ息を吐いただけなのにこんなゾクゾクするのかと

中盤、とうとう姿を見せてからの切り替えも見事
前半ほど過剰に怖がらせなくなる
アクションの見せ方はアップグレードを思い出した
フィックスだけどキャラクターの場所に合わせてカメラが動く独特なスタイルをリー・ワネル式、もしくはアップグレードでも彼と組んでいた撮影監督ステファン・ダスキオ式と呼ぶ日は近いかもしれない
生身の肉弾アクションがすごい見やすいってのは好印象
終わりに向かうにつれて、ホラーからアクションに変わるだけではなく、そもそもどういう話だったかを確立させるべくスピードアップしてく感覚も心地よく、これまたアップグレードを思い出す面白さ

そしてそして、この映画が"アップグレード"と言える最大の要因
それは、弱者の物語だということ
数々の演出そのものは、新鮮というよりは間違いなく的確で文句なしに面白いだけの話
被害者を主人公にする、それだけで透明人間というタイトルにダブルミーニング、いやそれ以上の意味を持たせるという発想には心底恐れいった
今、透明人間をやります!となった場合、科学考証をガチガチに固めた見せ場たっぷりのリアル寄り大作にしてもいいと思うんですが、そんな安易な方向に走らない信頼出来る男、リー・ワネル
あくまでテーマに寄り添うことに一番の比重を置いた
可視化出来ない恐怖や不安が蔓延し、悲鳴と助けの声をあげても文字通り見えないものとして見て見ぬふりをされている
今、透明人間をやるならアプローチから変えてやろうという意気込みが立派すぎる
無機質で左右対称な空間の孕む狂気は、清廉潔白さ、悪く言えば思考停止した正しさ崇拝を暗にディスってるよな
だからこそ!!!ラストの展開、そして最後のカットがたまらない
一元的な弱者の逆襲に纏まらせないグレーさも見せてくるこのダークな終わり方!!!ザ・ハードSFって感じ、最高!!!!!


ということで、アップグレードで抱いた印象そのまま当てはまるような逸品でした
古典のスピリットを受け継ぎつつ、逆転の発想そして現代的テーマを持ち込み、伝統に新しい風を吹き込んだ「面白い」ジャンル映画を優れた映画的演出そして脚本で作り上げる男、リー・ワネル
今後も彼から目が離せません