シネマスナイパーF

シン・仮面ライダーのシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
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真面目なサイコ・ゴアマン

話の規模や舞台を大きくすることも、より作り込んだ物語にすることもやり方としてあっただろうし、当然アンノさんサイドにはそれを実現する力が充分あったはず
でもそれをやったらその分『仮面ライダー』からは離れていくと判断したのだろう
不幸を背負う人間達が人ならざるものとして人知れず辛くも生きている様子を、色々な意味で"控えめ"に描くことに徹した
そうして出来たこの映画は、『仮面ライダー』が持っている悲哀の物語という部分を際立てつつ、放映当時の『仮面ライダー』が持っていた技術不足ゆえの拙さを魅力として保ち再顕現させた、なんとも歪な作品だった


まず、登場人物を絞りに絞ったことで、半分人外である者達の戦いが切実に孤独なものとして際立った
『仮面ライダー』が持つ哀しみをなんとしても描きたい、そんな意志を感じることができた

しかし、その思いが強すぎたためか、肝心の登場人物達の感情が物語に着いて来れていない
登場人物が物語を引っ張っていくべきなのに、人間を描かないまま物語が登場人物を連れ回してしまっている
これはいただけない…
劇映画である以上感情移入の余地をあまり与えてくれないと、正直ノレないという事実が残ってしまう
厄介なのは、それも実は狙ってやってのことなんじゃないかってとこなんだよな
意図的なものだと言われればそれも通ってしまうような立ち位置の映画なんですよコレ


アクション演出は確実に意図的なもの
放映当時のものを再現した印象的なカット割りは勿論のこと
CGは正直どうなんだこの品質はと思いましたが、自分なりに良い方向へ解釈した結果、「放映当時は技術不足で実現不可のため想像することしかできなかった画を想像のまま再現するため、リアルに見えないような質感にした」という結論に至りました
今作の場合、CGを現実の延長にしてしまうと意図的にやっている古風な特撮演出が殺されてしまうという弊害を起こすのでこれで良かったと思うこともできる
拙さ、野暮ったさは『仮面ライダー』に必要だったということ

ここに至り、物語の拙い運び方も魅力として反転可能になるため、一概にダメだと切り捨てにくくなる
いや、劇映画としてヘタクソなのは間違いないけど
それでも、『仮面ライダー』をあくまでB級SFドラマとしてやり切る方向で突っ走った結果としては大成功している
かつて愛したSFに感謝と恩返しをする志は尊いものです


変わるモノ
それは、SHOCKERが敵役として持つ大義や、ライダー達のデザイン
征圧し服従させるような悪の組織像はもう古く、極少数の幸せのみを追い求め、押し付ける組織としてSHOCKERは帰ってきた
各デザインも現代的に、実用的にアップデートされた
血に塗れた逃げのない暴力描写も非常に良い

変わらないモノ
それは、『仮面ライダー』が物語として持つ魅力
不幸を背負い、自身の異常な身体に苦しむ人々のドラマはいつだって心を打つことを改めて教えてくれた
敵から仲間へ、そして共闘という展開は間違いなく熱くなるものなんだよ

変えたくないモノ
それは、『仮面ライダー』足り得るために必要だったもの
それがなんだったのか、上述した通り


クセがあり拙いけど、間違いなく魅力と愛嬌のあるB級映画が現れた!!
その名は…
『シン・仮面ライダー』