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マンチェスター・バイ・ザ・シーのdeenityのレビュー・感想・評価

4.3
アカデミー賞で脚本賞と主演男優賞の2部門を受賞している本作。作品賞としてもノミネートされ、『ララランド』と『ムーンライト』の二強という前評判とは言われていましたが、正直一番期待していた作品だった。何というか作品に漂う雰囲気が完全に好み。ミシェル・ウィリアムズとかも好きな俳優だし、実はかなり楽しみにしていた。

ストーリーは兄の死から始まる。主人公のリーはそれを機に故郷であるマンチェスターに帰ることになるのだが、実は故郷を離れたのは過去に起きたある事件がきっかけであり、そのことでひどく傷心したリーは心を閉ざし始め、いつしか街を出たのだった。そんなところで兄の死により故郷へ戻ると、兄の甥っ子のパトリックの後見人としてリーの名が遺言に残されていることを知り、現実と過去の問題を否が応でも見つめ直していく、といったところ。なぜ兄が遺言で後見人を任せたか。辛い過去を背負った弟に任せようとしたか。

内容云々に触れる以前にまず評すべきは脚本であることは間違いない。作品自体、リーの感情の動きというのが見どころであり、そのリー自身が感情を押し殺している役柄な訳で、詰まるところ多くを語るわけではないけども思いがジワジワと涵養してくるような表現が素晴らしい。
物静かで街の喧騒もなく、クラシックのようなBGMが流れ、現実の問題に振り回され、時に過去の出来事がフラッシュバックし、自分の辛さを吐き出すこともできなければ理解もしてもらえない。そんな中でも我慢して、こらえて、時に爆発する時なんかもより印象的で、リーの気持ちがひしひしと伝わってきて、まるで叙情的な詩のような余韻のある作品だと思う。特に要所で挿入される爆発シーンは非常に効果的だった。

どうしても直接的に多くを語らない分、入り込むのに少し時間がかかった。しかし、その一方でリーの過去に触れていく度に強制的に感情移入させらていくような作品の引力はずば抜けていた。





ここからネタバレがあります。





彼の過去が明かされてからの感情は痛いほどわかる。大切に育ててきた子どもたち。その関係性も回想シーンで十分に伝わってきたし、それを失い、それも自分が意図しなかったとしても自分の責任で殺してしまった子どもたち。
淡々としていて読み取りにくいと思ってたのに、警察署で引き金を引こうとした場面、そして元妻にあって過去の話をする場面。この二つの場面は驚くほどグッと思いが込み上げてくるものがあった。

甥っ子との関係もジワジワ来る。頑なに故郷に残りたくはない。しかし、置いてはいけない。投げ出すこともできない。そんな板挟みのリーが少しずつ変化していく様もいい。それを願ったであろう兄の思いも汲み取るともっといい。

結局過去をやり直すことなんてできない。乗り越えられないこともある。許しが必要なんじゃなく、罰を求めたい思いしか持つことのできないことある。壊れてしまっている。いや、そうじゃない。壊れていても尚、生きるしかないのだ。前を見据えて。生きていれば見えてくる小さな光を信じて。

できることならもう一度見たい。また違った感想を持てる気がする。
本当に素晴らしい上質な詩のような余韻を残す作品だった。
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