海

マンチェスター・バイ・ザ・シーの海のレビュー・感想・評価

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おなかがすいて喉がかわいて、眠たくなって、触れていたくなった。たぶんこの映画を観終わったときわたしは、瞬間的に生きようって思っていた。いつもぼんやり決めてる生きるってことが、突然ぼんやりとじゃ決められなくなるときってある。好きで叶わなかったひとの声を聴くたびに息を殺してしまうこととか、何のために誰のためにあのひとを憎んでいるのかとか、なんであのとき背伸びして嘘ついて笑ってしまったんだろうとか、なんで好きとかそうじゃないとかって決めたら続けなきゃいけないんだろう、とか。そんな後悔とか失敗とかそれに対する途方も無い恐怖に、息なんか簡単にできなくなる。生きることが積み重ねなのってどうしてだろう。なんで今日は昨日の続きなんだろう。なんで、わたしはあなたの続きじゃないんだろう。わたしの好きな音楽だけ流れ続けるわたしの車のなかでわたしは一人で泣いた。冬は寒いほど立ち直れない気がするし、夏は肌がべたつくほどもう二度と立ち上がれない気がするし、春と秋は心地いいほど不安になって、つらいんだ。未来だけ見て生きていくために、失ったものを数えないと気がすまなくて、でもそうすると、自然と目的は少しだけ崩れる。わたしはこのひとたちみたいに、不器用で可哀想で、いとしいだろうか。わざと泣く、雲間から差す光をふくらませるために。わざと転ぶ、その手にふれられる時間をすこしでも伸ばすために。わざと笑う、同じようにわざとでも、あなたに笑ってもらうために。そういうわざとが、いつか本気になって、無かったことにしないためにしたことの全部が、わたしを抱きしめていた。失い続けるだけで、手に入れたものなんてないように思ってたのに、隣にはあなたが居て、振り向けば夜に光る星の正体を知り、そしてまた、去っていった。引き止めはしないけれど、少しだけ別れ惜しむ。車のライト、暖房、通り過ぎていく音、自分を守るのに精一杯だったから、この腕のなかで、わたしとあなたを包んだ。だから眠る。放り投げて、また抱きしめる。今日は昨日の続きだから、わたしはわたしだけの続きでしかないから。海を見たくて、船に乗ったよ。
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