大好きな映画だった。
映画の持つテーマもさることながら、映画の息づかいや空気感、間やユーモアなどが特に好きだった。
ピザを冷蔵庫から出してレンジで温めたりとか、写真立てを毛布に包んだりとか、冬の車のヒーターが効かないとか、細やかな仕草のリアリティと間。
なんともないカットのようで、それらひとつひとつからじんわりと心理描写が浮かび上がって来るようで、退屈しなかった。
主人公が抱える、過去の罪。
壊れた心を拾い集めて修復し、前を向いて生きていくなんて、出来ないのかもしれない。
しかし、兄の死をキッカケに、自分の周りには自分を想ってくれる人がたくさんいる、ということを知る。
そして、両親を失った甥のパトリックの存在。
彼らのためにも、なんとか前に進まなきゃと思うのだけれど…
なかなか進めない苛立ち。
心にひそむ孤独や罪の意識、焦燥を物凄く繊細に表現しているのが素晴らしい。
血の繋がりのない親子の姿を映しながら、傷だらけの人々の苦悶を描く。
他人が辛いのは分かる。
でも、自分だって辛いのだ。
加害者意識と被害者意識が渦巻きながら、地団駄を踏むことしか出来ない遣る瀬無さが痛いほど伝わり、映画の終盤にかけては涙ぐむこともあった。
映画自体大きな抑揚がないので、少しじれったく思うこともあったけど、終わってみれば、それを含めて好きだな、と感じた。
これだけ繊細に描いておきながら、ラストシーンでは「父と息子らしい」描写をぎこちなくも分かりやすく示して来るものだから、何度か巻き戻して観た。
過去の傷は癒えず、抱えたまま生きていかなければならないのかもしれないけど、そんな中でも、人生が好転するきっかけはどこかに転がってるのかもしれない。
もう少し大人になってからもう一度観よう。
どうでも良いけど、家に来てたあの女の子、ムーンライズキングダムの子か!