Maki

ウインド・リバーのMakiのネタバレレビュー・内容・結末

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

原題:Wind River
公開:2018年
鑑賞:動画配信

痛烈な映画。
幕開け後に「事実に基づく」とある。
幕引き前に「その事実」が語られる。





▼ ▼ ▼ ネタバレあり ▼ ▼ ▼





・全体の構造は【ボーダーライン(Sicario)】と【最後の追跡】の系譜。前二作を髣髴とさせる仕草がたびたび現れては散ってゆく。脚本家として監督としてテイラー・シェルダンの才能と気概には疑う余地がない

・インディアン居留地(調べたところ、居留地に住む彼らは「ネイティブアメリカン」よりも先祖代々受け継がれた「インディアン」に愛着を持つらしい。「ネイティブアメリカン(アメリカ先住民)」の指す範囲が広すぎることもその所以)。抜け出せない。運にも頼れない。諦めるか生き残るか。溺れれば壊れるだけ。弱ければ死ぬだけ。後にも引けず先にも進めない。追いやられた人々が蠢く谷底。底に掘られた穴で被虐を受ける女性たち。弱い者が強がりさらに弱い者を叩くその世界自体が映画の主役だ。

・底の底には、娘を慈しむ父が在った。娘を愛おしむ母が在った。そして在ってはならないことが在った。哀しみ。怒り。慟哭。絶望。生きた証しと刻んだ痕跡。命を賭して踏みしめた足跡。そのなにもかもを覆い隠さんとする吹雪と歴史が憎憎しい。
 
・娘エミリーの死を苦しんで苦しんで受け止めようとした父コリーが 娘ナタリーを喪ったばかりの父マーティンに語りかける。辛い。烈しく痛い。ひどく虚しい。雪に凍った知人を発見したり…友人が暴虐を受けたり失踪した経験がないひとでも たとえ想像だけでもわかってもらえるだろうか。
 
・劇中はっきりとは描かれていないが 親友だった少女同士の互いを想う様が見えたように感じる。極寒の雪原を裸足で10km走ったのはナタリーだけの力か。コリーがナタリーを発見したのは果たして偶然なのか。ときおり木陰から見つめる視点は誰の…そう…あれはエミリーのものではないのか。ウィンド・リバーから抜け出したがっていた彼女らの末路は哀しくてしかたがないけれど 今は暖かいぬくもりのなかにあってほしい と願った。
 
・ハンターのコリー役ジェレミー・レナーがとにかく巧い。眼の開きや閉じ。視線。顔の筋や皺の動きまで台詞がない場面でもその心が透けてくるようで感服する。
 
・FBI捜査官ジェーン役エリザベス・オルセンも負けじと巧い。現地に不慣れなお客さま=お嬢さん然としていた彼女が次第に適応。理解と感情と矜持で突き進む様は見事だった

・奇抜なタイミングで突入する真実の回想。出演を知らずまさかのジョン・バーンサルに驚く。ナタリーとの束の間の愛。ささやかな希望がズタズタに引き裂かれる転換が痛ましい。

・凶悪なタイミングで発動する近距離銃撃戦。立ちこめる火薬の残り香を切り裂くのはコリーのライフル。生命を無化する狙撃。人を狩る弾丸。
 
・犯人グループ首謀ピートがもうクズすぎるクズ 目の前に居たらとても冷静でいられないほどだが…いや アレを演じきれる役者さんはほんと讃えたい
 
・アルコールしか楽しみがないといわれる居留地。世界と戦わず感情との戦いを選んだ男の家には「コーヒーか牛乳か井戸水」しか飲み物がない。どんな意味か。端々に想いを馳せる。

・脚本公開されていたらぜひ読みたい。心に残る台詞が満載。
Maki

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