LalaーMukuーMerry

太陽の蓋のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

太陽の蓋(2016年製作の映画)
4.4
太陽とは原子核反応のメタファー、太陽の蓋とは核反応を閉じ込めておく原子炉そのものということでしょう。別のメタファーとして、核反応をコントロール下におけると過信していた人間の傲り、あるいは、この国の原子力政策にかかわる組織の隠蔽体質のことを言っているのかもしれない。
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3.11東日本大震災の直後から5日間の、主に首相官邸の緊迫した動きを新聞記者の目で描いた作品です。後になって分かった、あまり知られてないことも含まれていて、凄く面白かったです(特にDVD付属のanother story「報道の行方」)
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あれから6年、折りにふれ、いろんな角度から当時の政府や東電の緊急対応の不手際に批判が向けられてきた。それは別に悪くはないのだが、この作品をみると、もしあの時民主党の菅総理ではなく、自民党の〇〇総理であったとしても、おそらく結果は大して変わってなかっただろう、と感じた。
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6年も経つと、記憶も意識も当時のままというわけにいかない。だけど、あの大津波の直後、確かに日本は絶体絶命の危機に直面していて、一歩間違えば半径250km圏に人が住めなくなるという最悪のシナリオが起こっていた。そこには東京も含まれて5000万人の日本人がいた。
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原子炉の爆発という最悪のシナリオを防ぐため、一人の作業員が決死の覚悟で100ミリシーベルトもの被曝線量をうけながらベントを手作業で行った。おかげで最悪のシナリオは避けることができた。しかし、そのせいで放射能が放出され福島県に帰宅困難地域が生まれてしまった。
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あの事故で、原子力政策のおかしさ、東電の経営体質、大金に任せたメディア支配、いろんなことが一気に明るみに出てきたのだけれど、喉元過ぎれば熱さを忘れる? 人々の意識は確実に変わった筈なのに、それとは裏腹に、いつのまにか原発は再稼働、エネルギー政策もほとんど何も変わっていない。再生可能エネルギー開発への取り組みも本気度がいかにも小さい。もとの木阿弥にもどっているように感じてしまう。これはまずいよ。
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この作品だって、政治家は実名で登場するのに、原子力安全委員会や原子力安全保安院のトップの人や、東京電力の人の名は変えてある。極めつきは、東京電力を「東日(トウビ)電力」に変えてあったことだ。これって必要?「これは事実に基づくフィクションであり登場人物の多くは架空である。劇中における行動や発言は創作であり実在の人物はいかなる責任も負わない」の画面を最初と最後に2度もわざわざ挿入する必要性は全く感じない。やっぱり東電の圧力なんじゃね? あの事故以来、私の中で東京電力という会社の印象は地に落ちたまま。ベクトルが上向きになったことは一度もない。この作品でさらに下げた感じですな。
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福島の事故はまだ何も終わってない…
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作中登場人物の( )内が実名です。
・原子力安全保安院院長 手島憲之(寺坂信昭) 
・原子力安全委員会委員長 万城目嗣久(班目春樹) 
・東京電力フェロー 宅間昭一(武黒一郎)