カルダモン

田園に死すのカルダモンのレビュー・感想・評価

田園に死す(1974年製作の映画)
4.3
限られた空間の中に張り巡らされた結界のような映画。結局どこにも行けず、幻のごとく夢や憧れが消えて無くなる。芝居、舞踏、朗読によって磁場を作り上げて、美も醜も渾然一体。そして恐山の存在感。


イタコを通じて亡き父と会うことを楽しみとする中学少年。うるさい壊れた柱時計と、やたらと子煩悩で疎ましい母親との二人暮らしは、いち早く家を出たい少年の足枷となって実に重苦しい。
一方で村にやってきたサーカス一座と、軽い誘惑を仕掛けてくる人妻の存在は、知らない世界への憧れを抱かせ、容赦なく童貞少年を駆り立てる。





....そんな自伝映画を大人になった中学少年が作り上げ、試写会で上映しているという入れ子構造。
やがて時空を超えて過去の自分と出会い、自分で自分を解体していく。
結局は何も変わることなどなくて、身も蓋もない。母親と向かい合って食事する日常が突如として新宿駅東口アルタ前にさらけ出されて、恥ずかしい。


作品を現実世界に接続させるような行為は、それ自体が演劇のもたらす効果そのもので、これが天井桟敷かと、うっすら想いを馳せる。過去に戻れるなら観てみたい、吸ってみたい時代の空気。



風船女の恍惚な表情、川を流れる雛壇、田んぼの真ん中で歌い狂う三上寛のイメージがショッキング。