Tラモーン

潜入者のTラモーンのレビュー・感想・評価

潜入者(2015年製作の映画)
3.7
緊迫感溢れる麻薬カルテル潜入捜査モノ!実話に基づいたストーリーとのことで、オープニングとエンドロールで流れる実際の写真の生々しさは必見。

1980年台アメリカ。コロンビアの麻薬王エスコバル率いる麻薬カルテル「メジン・カルテル」により大量の麻薬がフロリダ、そしてアメリカ全土へ流入していた。そのためロナルド・レーガン大統領が掲げた「ドラッグ戦争」。税関職員ロバート・メイザー(ブライアン・グランストン)はフロリダで麻薬取締のため潜入捜査を行なっていた。麻薬ではなく、資金を追い組織のトップを潰す作戦に打って出た当局の指示により、メイザーはボブ・ムセラという金融富豪を演じ、同僚のアブレヴ(ジョン・レグイザモ)とともに、組織の資金洗浄ルートからメジン・カルテルの幹部まで辿り着くことに成功するー。


潜入捜査モノに付き物である、「バレたら家族諸共皆殺し」という緊張感は今作でもバッチバチ。何かあればすぐにピストルを抜くような麻薬カルテルに潜入する、真面目で家族思いな男の苦悩を描く。

実話ベースなので全体を通して派手さがないことや、登場人物の多さと、それぞれの思惑の把握が若干難しいのがやや難点か。

主人公メイザーの麻薬撲滅の使命感に燃える使命感と、家族を危険に晒したくないという板挟み、捜査のためとは言え関係を育んだ者たちへの感情の板挟みが非常に秀逸に描かれている。

メイザーは奥さんを大切に思う気持ち故に、紹介された情婦を抱けず婚約者の存在を口走ってしまい、婚約者役の捜査官を投入しなければならなくなってしまう。
その結果、本物の奥さんといる所を一緒にいるところをカルテルの人間に見られた際には、奥さんの前で「秘書だ」と偽ってしまう。そして麻薬組織と関わる下劣な人間としての姿を奥さんの前で見せることに…。仕事とわかっていても奥さんの気持ちを思うと切ない。
"婚約者はどんな人?"

組織幹部から忠誠を試すように送られた身の毛のよだつような贈り物。あんなもの自分の子どもに見られたら…。

急遽婚約者役を演じることになった捜査官キャシーを演じたダイアン・クルーガーはかなりの大役を見事にこなす、まさに名演技。カルテル幹部とその妻との距離を縮め、信頼を勝ち取ったのはキャシーの演技力によるものが大きい。

命を懸けた捜査の中で、自身を守ってくれるボブに惹かれてしまうキャシーの切なさ。家庭が上手くいかず、わかっていてもキャシーに気持ちが傾きかけるボブ。2人の絶妙な距離感もなんともつらい。
キャシーがボブの家を訪れた際、自分に対し不快感を露わにするボブの奥さんに対して、如何にボブが奥さんを思っているか伝えるシーンが素敵だったし、キャシーの気持ちを思うと切なかった。

クライマックスはボブとキャシーの偽結婚式。麻薬の入港に踏み込まれ追われる身でありながら、2人のために式に駆けつけたカルテルの幹部ロベルト。彼は2人のことをビジネスパートナーとして、友人として完全に信頼していたのだった。
長い期間をかけた潜入捜査の最後を飾るのは、2人が信頼を得ることで式に招いたカルテル一味の一網打尽の逮捕劇だった。

"家族や友達がいない世界で生きる意味などない"

やっぱり潜入捜査は切ないよ。どうしたって信頼を得る仲になったら友情や愛情だって芽生えちゃうでしょ…。そのうえ家族まで危険にさらして…。

エンドロールの役者、ご本人写真並べてがなかなか似てて面白かった!
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