茶一郎

The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめの茶一郎のレビュー・感想・評価

3.7
 クリント・イーストウッドが女の園で大変な目に合う1971年の変態スリラー『白い肌の異常な夜』を、ソフィア・コッポラ監督がまさかのリメイク!
 舞台となるのはアメリカ南北戦争。北軍の兵士ジョン・マクバニー(コリン・ファレル)が南部の女学院に迷い込んだ事をきっかけに、男性に慣れていない女学院の教師、生徒たちの愛憎、嫉妬、様々な感情が揺れ動く心理スリラーになります。

 『ロスト・イン・トランスレーション』からソフィア監督作品の美術監督を務めるアン・ロスからリメイクを勧められた監督は、リメイク元を「女性」の視点から描き直す余地があると決意し本作の企画を始めたそう。なるほど本作『ビガイルド』はその監督の意志通り、イーストウッドの変態性とトリップ演出が目立った『白い肌の異常な夜』から、女性登場人物たちの感情の機微を静かにすくい取った実に監督らしい「女性集団」映画に仕上がっていました。
 本作では、映画が始まり冒頭から、ラストに至るまで「森」、「木々に覆われた女学院」、「木に囲まれる女性たち」という画が頻出します。この女性たちが置かれている空間、状況の描写一つ取っても本作が女性映画であることに気付かされました。本作におけるこの「閉鎖空間における女性集団」は、『バージン・スーサイズ』厳格なルールの家庭に縛り付けられたリスボン姉妹、『ロスト・イン・トランスレーション』と『マリー・アントワネット』家族から異国に取り残された女性主人公、謎の教育を強いられている女性が強盗集団に入る『ブリングリング』と、監督の過去作に一貫したモチーフのように思います。
 そしてこの女性を覆う木々を、文字通り、枝を折るという動作によって取っ払うのが本作に登場する唯一の男性であるマクバニーでした。このマクバニーをリメイク元のイーストウッドのような男の中の男ではなく、どこか弱々しい小型犬のような風貌のコリン・ファレルが演じているというのも興味深い点。劇中では、女学院の教師に気に入られようと畑仕事をするマクバニーと、餌が捕まっていない「クモの巣」とを交互に映すことにより舞台となる女学院、そこの女性集団の恐怖を演出します。マクバニーは、まさに女郎グモが仕掛けた罠に自分から飛び込んでいく餌として描かれるのです。

 木々に覆われた女学院に次第に、木漏れ日が増え、迎える衝撃のラスト。このラストまでのスリラーを丁寧に、ややジャンルムービーとしては静かすぎるほど、お上品に語る。
 女学院のボス・マーサを演じたニコール・キッドマンから連想する他作品は彼女が主演を務めたHBOによるドラマ『ビッグ・リトル・ライズ〜セレブママたちの憂鬱〜』でした。2017年、リミテッド・シリーズのドラマ賞を総なめにしたこの作品は、最後に「女性集団」VS「男性一人」の構図を浮き彫りにします。この2017年という年は『ビッグ・リトル・ライズ』以外にも、西部劇に女性だけの街を登場させた『ゴッドレス』、女性アンドロイドたちの復讐『ウエストワールド』と、ハリウッドの大物プロデューサーによる長年の性的虐待が暴露された年だけに「女性集団」の強さが描かれた素晴らしい作品が多かった年です。そして、本作『ビガイルド』もその例に漏れない作品でした。
 女性集団の映画『ビガイルド』、この作品が女性監督として史上二度目のカンヌ国際映画祭監督賞を受賞したのは2017年を象徴する出来事であります。
茶一郎

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