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ありがとう、トニ・エルドマンのKKMXのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

Prankster という言葉がありまして、意味は『悪ふざけ屋』だそうです。どれくらいメジャーな言葉かは不明ですが、偽エチオピア皇帝事件の偉大なるホーレス・コール大先生は英語版wikiにおいて、eccentric prankster と紹介されておりました。現代では、サシャ・バロン・コーエンあたりがこの系譜を継いでいるように感じます。

ヴィンフリートのおっさんはコール師匠のようなキレやスケールはないけど、間違いなくprankster でしょう。悪ふざけをすると、脳内麻薬がドバドバ出て、とんでもなく気持ち良くなるんだと思います。
冒頭の双子コントとか、先生の(自分のか?)お別れ会で生徒たちにコーパスペイントさせるとか、真に無駄で無意味です。これらのエピソードから、彼は気持ちがいいから悪ふざけをしてるだけであり、悪ふざけで何かを訴えるとか風刺するとかが目的ではなく、悪ふざけ自体が目的であることが判ります。
ブカレストを訪れた時は普通のヴィンフリートでしたが、トニ・エルドマンのキャラを閃いた(もしくは持ちネタで、ここでやりたくなった)ので、残って遊んでいたんだと思います。勿論、イネスが心配という面もありますが。
ラストの着ぐるみも、どっかで見つけて「これはヤバい!着ないと死ぬ!」みたいな衝動に従ったんじゃないでしょうか。着ぐるみの頭が抜けなくなるとか、破滅型ロックンローラーのような瞬間瞬間を生きている完全燃焼感がありますね。

幼女時代のイネスは、きっと親父の悪ふざけが好きだったのでしょう。だからヴィンフリートも「本当のところ、イネスは俺の悪ふざけが好きなんだろ〜」とダメな勘違いをしてしつこくやってたのかもしれません。実際、イネスは意外と親父の設定(秘書とか)に乗ってきますし。

ヴィンフリートは遊びやゆとりがまったく無く強迫的に生きているイネスに生きる喜びを感じてほしかったのも真実だと思います。しかし、彼のブカレスト旅行の感想は「マジで楽しかった〜。イネスとも遊べたし、エルドマンはクオリティ高かったぜ、グフフ」くらいのモンでしょう。そんくらいのびのびしていたからこそ、素直に楽しんで素直に愛を伝えるなどのフリーチャイルドな態度がイネスに影響し、結果的に彼女は変われたのだと感じました。
まぁ、石油発掘現場で野○ソしようとしたのはのびのびにもほどがありますがね。あのシーンは「このオッサン、マジでガチだ!」と実に興奮しました。

映画自体はとても丁寧で、グローバル企業の人たちを単純に悪く描写しないなどステレオタイプを排した誠実さもあり、とても複雑で深みのある映画だな、と思いました。ただ、独特の間延び感がありもどかしさは感じましたね。162分はやはり長すぎて少しばかりしんどかった。
イネスの全裸パーティで、上司と秘書が乗ってくれたのが素敵でした。上司なんて一杯ひっかけて覚悟を決めて来てくれているし。秘書の子は本当にイネスを尊敬してるんだなぁと伝わります。いい仕事仲間だね。
ラストも、イネスは地元に帰ってこないのも良心的で押し付けがましくない。たぶん、ブカレスト以降、イネスなりにバランスが取れ充実を感じられるようになったのではないでしょうか。
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