めしいらず

オリ・マキの人生で最も幸せな日のめしいらずのレビュー・感想・評価

3.6
自国開催のボクシング世界タイトル戦に臨む挑戦者のオリ・マキは心優しい男だ。子供が大好きだし、スパーリング相手にも遠慮してしまうし、ポールをぶつけて水着の女の子を水槽に落とす遊戯でも彼だけがボールを投げつけることができない。加えて大事な試合前なのに恋に落ちてしまう。フィンランド初のチャンピオンを熱望する国民からの期待の大きさ。コーチが人生を賭けて尽くしてくれる姿。邪魔にならぬよう身を退こうとする恋人。そんなことばかりが目に映る。オリは人の気持ちを察し過ぎてしまうのだ。それは一面で彼の弱みでもあった。重圧に押し潰されそうにもなった。だがオリは奮起した。何より恋人の言葉が大きかった。他人の勝手な期待に応えられなかったとて何が悪かろう。そして皆が期待している物語の最高の結末とはならない。やる気でどうにかなるほど勝負事は簡単でも甘でもない。相手も人生を賭けている。惨敗に項垂れつつもどこか身軽になったようなオリの風情が微笑ましい。惨めな敗戦の最低のこの日は、彼が"私"から"私たち"の人生に舵を切る最高の日でもあるのだ。
とても慎ましく爽やかな印象を残す映画だった。美しいモノクロ映像も素敵。
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