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IT/イット “それ”が見えたら、終わり。のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

一見、平和で静かな田舎町デリーを突如、恐怖が覆い尽くす。子どもの失踪事件が相次いで発生。内気な少年ビルの弟も、ある大雨の日に外出し、通りにおびただしい血痕を残して消息を絶った。悲しみに暮れ、自分を責めるビルの前に、突如「それ」は現れる。「それ」を目撃して以来、恐怖にとり憑かれるビルだが…。

人気ホラー作家スティーブン・キングの小説は良くも悪くも長い。
状況やキャラクターを丁寧に描写するため、ドラマや映画化する時はいつも尺の問題が発生する。
かつて3時間のTV編集版を見たが、少年期の話だけで映画を成立させたのは実に英断。
本作は登場人物の少年たちの成長と彼らを取り巻く環境を上手く描いており、おなじく思春期の少年たちを扱う「スタンド・バイ・ミー」のホラー版と言えるだろう。
キングを知らなくても充分に楽しめるジュブナイル・ホラーの秀作である。

得体の知れない恐怖を抱えることになったのは、ビルだけではなかった。
不良少年たちにイジメの標的にされている子どもたちも「それ」に遭遇していた。
自分の部屋、地下室、バスルーム、学校、図書館、そして町の中……何かに恐怖を感じる度に「それ」は、どこへでも姿を現す。
ビルとその秘密を共有することになった仲間たちは「それ」に立ち向かうことを決意するのだが…。

登場する子どもたちには恐怖から逃げる場所がない。
はっきり言ってしまえば、親が守ってはくれないし、信じてくれないのだ。
彼らの親は高圧的だったり、過保護だったり、ヒドい者となると性の対象として自分の子どもを見ている。
思春期と同時期にやってくる反抗期の自立心にも似て、子どもたちは親に頼らず(頼れずに)自分たちの手で何とかしようと試みるのだ。
多くの人はそこに共感するはずだ。
同じようなイジメ、異性への憧れや恋心など、皆が味わって大きくなっただろうエピソードの数々は、ほろ苦い懐かしさを感じさせる。

本作は恐怖の対象である得体の知れない「それ」=ペニーワイズというキャラクターの造形に成功している。
冒頭、ペニーワイズがビルの弟を狙って排水溝から現れるところからして、明らかにこの世のものではない。
トリッキーな動きと甘ったるい話し方はイタズラっ子のようだが、メイクの下の笑顔は気味が悪く、明らかに狂気的だ。
非現実的な場所、あり得ない大きさで神出鬼没に現れるその姿はシュールな悪夢そのものだ。

ペニーワイズ役の俳優が特殊効果を活かしてモンスターを巧みに演じたがゆえに、少々現実味を失っているのが個人的には残念。
驚くほど「自然に」異世界の怪物なのだが、「どこにでもいるピエロだが何か変だ」という不自然さで、怖さを少しずつ盛り上げて欲しかったところ。

しかし、原作も旧作も知らない人がそのまま初めて視聴すれば素直に怖いだろう。
好演する子どもたちに感情移入するため、見る者も無力な子どもの気分になるが、暗闇であんな風に襲われたらと思うとたまったものじゃない。

誰にも頼れぬ弱き子どもたちが、恐怖や不安を克服してモンスターに立ち向かう。
それは大人とて同じだ。
不安を振り払い、何かに立ち向かうからこそ人間的な成長がある。
それまで大人やイジメに虐げられて来た分、子どもたちを応援したくなるし、逆転のカタルシスに酔える。
恐れを無くした子どもたちに、恐怖を糧とするペニーワイズが勝てるはずもない。
怪物に勝利するラストは自分や仲間を信じる勇気が大切だと教えてくれる。

キング作品は山ほど映画化TVドラマ化されているが、それぞれ微妙に内容が異なるため、原作者であるキング本人や熱烈なファンの怒りを買ったりもするが、映画は監督の物なので原作と比較するのは余計なお世話だろう。

原作の半分の内容であるが、続編は要らないと思えるほど「大人の階段を登る」少年たちのドラマとして成立した作品である。
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