まりぃくりすてぃ

ベロニカとの記憶のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

ベロニカとの記憶(2017年製作の映画)
4.6
原作物だから当然、物語がしっかり。みんな大人の演技だし、全体として邪魔要素のない作りだから疲れず集中して観れた。

若いトニーと老トニーがもっと似た顔立ちであってほしかったけどね。目尻が似てないよ。
ベロニカたちの方は、後でパンフで見比べてみたら老若それなりに似てた。(あやふや&かたくな&フレンドリーな奥手嬢という最も演じにくそうなキャラの若ベロニカ役は、爽やかさんとしてよく頑張ったね。)

さて、謎で引っぱる映画………の後半、ゲスな過去が明るみに出る! ノルウェイの森的な遠さじゃなく、グッと卑近なところに物語が下りてきて、その小ささ・せせこましさ・滑稽さと老けが、独自性。
そんな時にも「神」は一言も出てこない。それでいい。現代欧米人の七割以上は、信仰心なんて全然持ってないんだから。この世はただただ、人と人と人と人と人。美も醜もひっくるめ、この這いつくばりから何かを見出していくしかない。ドラマはすべてそこにあり。
……なんだけども、老トニーはちょっと己のゲス過去に今さら右往左往しすぎだ。
例えば元ヤンキーは、ヤンチャ時代と同じ行動なんてもうしたくないし過去を恥じる気持ちはあるだろうけど、「あの頃に戻って人生をやり直したい」と悔いたりはしないもんでしょ? ハードな過去も、幸せな過去も、それら全部が今の自分を形成してくれているって思うもんでしょ? トニーの思いは嘘臭い。
その一方、誰よりも自殺したいほど傷ついたはずのベロニカがどれだけの修羅を生きてきたのかは、描かれてない。余白を想像だけさせる姿勢は小説的であり、映画についつい私たちが求めてしまう“描き尽くし”をこのシナリオは拒んだ。
せめてベロニカが20代で何度も自殺を図ってそのせいで背中から脇腹にかけて火傷のケロイドが残ってる(と語る)とか、リストカット傷百本を見せるとかぐらいはしてほしかったかも。