ベルサイユ製麺

手紙は憶えているのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

手紙は憶えている(2015年製作の映画)
3.1
ナチの元将校を追い詰める話といえば『ゴールデンボーイ』や『きっと ここが帰る場所』などを思い出します。それぞれ印象深い作品。さて、今作はというと…。
粗筋だけを箇条書きにしてみるとなかなか良く出来た話ですし、ラストの展開も想像の一歩上で、脚本自体はきっと面白いのだと思います。ですが作品として見ると、いくつかの事柄がどうにもノイズになってしまい、心の底からは楽しめませんでした。
1つ目の問題は、そもそもこのテーマはエンターテイメントとして楽しんでしまって良いのか?という点です。あくまで自分の中での線引きですが、娯楽映画の創作のネタとして「ナチスは有り」で「ホロコーストは無し」だと思っています。(X-メンのマグニートー覚醒の件も無し)ましてや、被爆者やホロコーストの被害者の高齢化によって、直接の体験談を聞く機会の存続が危ぶまれる中、今作の主人公の設定では“彼等は歳を取りすぎて意識が曖昧になっている”というイメージを植え付けてしまう事に成りかねないのでは?とも思います。何か別の仕掛けは考えられなかったのかなぁ…。
もう1点の問題は明確で、見た目が悪いって事です。特に拘りも無く、必要な画を撮って繋げた風、というかテレビ映画みたいな、緊張感の無い画になってしまっているのです。正直、ここ三作程の監督の作品はいつもそうで、話は悪く無いのにチープな画作りが作品世界への没入を拒んでしまっていて非常にもったいないです。いっそ撮影チームを刷新すべきではないかしら。

ドラン、グルー、ヴィルヌーヴらカナダ映画界の新しい才能が台頭する中、長きにわたってその屋台骨を支えてきたアトム・エゴヤン監督の、捲土重来を期待したいです。『スウィートヒアアフター』の衝撃をもう一度!