茶一郎

哭声 コクソンの茶一郎のレビュー・感想・評価

哭声 コクソン(2016年製作の映画)
4.4
ホラー、スリラー、コメディ、サスペンス、オカルト、エクソシスト、ゾンビ、アクション、悪魔、神、キリスト教……
おおよそ食い合わせが悪いこれら膨大な数の食材が、ナ・ホンジンという天才シェフの手により極上の料理になっていく2時間30分。
しかし、実際の体験時間は30分程。この速すぎる映画『コクソン』は、いつものジェットコースターに乗ったと思ったら、その速さのままお化け屋敷、メリーゴーランド、コメディーショーを経由し、最後には身ぐるみを全部剥がされ投げ捨てられるかのような衝撃の乗り物でした。

韓国の田舎村「コクソン」に来た謎の日本人「よそ者」(國村隼)、そして同時に発生し出した怪奇事件。今作『コクソン』は、「よそ者」を信じるか・信じないか、「信仰」と「疑い」についての映画です。

※ なるべく前情報を入れないことをオススメ致します。
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『チェイサー』『哀しき獣』今まで韓国ノワールの傑作を作り続けたナ・ホンジン監督が初めて「好き勝手」作ったという今作。ジャンル的な枠組みや約束事を取っ払い、観念的、文学的な不条理劇という印象です。

今作を見て、改めてですが「走って、走って、走ったら、そこには人間の心の闇が。」というのがナ・ホンジン作品の根本だと思いました。とにかくテンポの良い編集と映画自体のパワフルな面白さで観客を引きつけ、最後には人間の本質を垣間見せるのです。
特筆すべきは色濃いコメディ要素。前監督作までではそこまで強調されていなかったコメディは、主人公がおデブコメディリリーフということもあり、中盤までかなり笑える映画になっていました。

徹底的に観客に疑問を投げつけ、観客を混乱させるためのシーンに見事に混乱に次ぐ混乱。
國村隼扮する日本人の「よそ者」は何者なのか、信じて良いのか、疑うべきなのか。「よそ者」が閉鎖的なコミニティに投じられることにより、噂が生まれ、人々の中に信仰・疑念が生まれる。
登場人物の思ったように変化する「よそ者」は、他者に対する(他民族への)偏見、差別、区別の象徴です。

映画として単純に面白いだけではない『コクソン』は、最後に「他者を信ずること」という人間の奥の奥に到達する映画でした。
茶一郎

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