このレビューはネタバレを含みます
文句をつけるのも憚られる作風だし、この映画を貶せる人間ってそうそうおらんと思う。
描かれる家族愛や友情は割と余所で観たようなありきたりなものだけど、それをどんな風に切り取ってどう見せるかの工夫に、作り手のフェアさや、優しさを感じる。
この映画は特別な病気を持って生まれた子を主人公としてるけれど、出てくる問題は仲間外れとか陰口、理由も無く避けられたりといった、健常者だろうが病人だろうが、人付き合いにおいて誰にでも起こるトラブルであり、そこがこの映画の勘所だと思う。
親友のジャックが陰口を言ってるのを聞いてしまって塞ぎ込むオギーに対して、姉のヴィアが自分の経験を引き合いに出して励ますシーンがあるけど、
「それは学校で誰にでも起こるようなこと」と姉ちゃんが言うように、オギーの身に降りかかるトラブルは、実際病気がどうとかあんまり関係ない。
健常者である姉ちゃんだって同じようなトラブルを抱えてるわけだし、親友ジャックだってそうだった。あんまり深く描かれなかったけどいじめっこのジュリアンもきっとその手の問題を抱えながら生きてるのだろう。
彼らが抱えるトラブルは、オギーのそれと同列に物語の中で描かれている。それは病気の人と健常者の人を同じステージに上げた描き方だ。
この映画は病気の話ではなく、オギーの話であり、そしてオギーの話であると同時に周りの人の話でもある。
もっと言えば、誰にでも当てはまる話でもあり、誰にでも起こるありふれたトラブルやありふれた家族愛や友情の話である。
物語は主人公オギーの視点だけでなく、姉のヴィア、オギーの初めての友達ジャック、姉の親友ミランダといった周囲の視点で描く構成になっている。
この多視点構造の演出は、他人を一方的に捉えて決めつけないフェアさを象徴してるように思う。
一方的な見方しかできなければ、ミランダはある日突然カースト上位に媚び売って親友を棄てた嫌な女で、ジャックは点数稼ぎや日和見主義で障害者にすり寄るいけ好かないガキでしかない。
でも主観で見れば悪意でやってるようにしか見えないそういった行為にも、相手目線に立てばそれ相応の事情があると分かる。
相手の視点に立つことや、ひょっとしたらなにか事情があるかもと相手の気持ちを慮ることで得られる繋がりや可能性を、この映画は分かりやすい理想的な展開と優しさで描いている。
欠点といえば、絵に描いたように悪し様に描かれたジュリアンの両親のモンスターペアレンツっぷりぐらいか。
なんか突然分かりやすい悪役チックなヤツが出てきて面喰らった。
だから、僕はあそこでジュリアン視点での語りシーンも出てくるんじゃないかと思った。
そこも描いてくれてたら、この映画にもうひと波乱起こったかも知れない。
普段他人を虐げてるようなヤツが何を抱えて暮らしてるのか。
ジュリアン目線の友達との交流とか、あるいはジュリアンの目線で両親の姿を見てみた時、なぜ必要以上に息子を庇うのか、その理由を描写してくれたら、、
と思ったけど、でもそれやとさすがに語りすぎかもとも思った。
退場間際に校長先生に「僕が悪かったんだ」と謝ることが出来たジュリアンの中にどんな感情があったのか、あえて語らず想像する余地として残しておいて、
"この映画を観た君たちならジュリアンにもまた何かしらの事情がある事が読み取れるよね?"
みたいな感じで観客への課題として残しておくくらいがちょうど良いのかも。
ひょっとしたら、作り手にもそういう意図があったのかも知れない。
個人的には姉のヴィアが一番好きだった。弟想いで気遣いが出来て、でも弟の陰に隠れて自分の気持ちを表に出せないでいるっていう、なんだかありふれた子。
観客も多分オギー以上にこっちに共感を寄せると思う。
姉が演じた劇中劇「わが町」のセリフも良かった。
ありふれた日常が実はかけがえのないモノだった的なセリフなんだけど、なんだかこの映画全体を包括してるような雰囲気が出せてて、
ちょっと泣けた。