ねむ

ヒトラーの贋札のねむのレビュー・感想・評価

ヒトラーの贋札(2007年製作の映画)
4.0
サスペンスかアクションと思って観たら、そういう感じではありませんでした。
しかも、「苦手」と書いてるそばからばっちり強制収容所のユダヤ人ドラマだった…。(予想外)

第二次大戦後間もない保養地モンテカルロに現れた、目つきの鋭い陰のある男。
カジノで派手に遊ぶ彼の回想から話は始まります。
その男は超一流の贋札職人であり、ユダヤ人であるために収容所に入れられていたのでした。

その男・通称「サリー」ソロビッチは犯罪者でしたが、卓越した技術によってドイツの贋札作戦のスタッフとして取り立てられ、外は地獄のような強制収容所の中で隔離された、「金の檻」贋札制作工房で働くことになります。

贋札作りはもちろん犯罪行為であり、ナチにとってユダヤ人は虫けら同然なので、この作戦が失敗すれば殺されるであろうし、成功したらしたで、最後は口封じに殺されるであろうと、ギリギリの緊張感の中でドラマは進みます。

強制収容所を舞台にしている割には、悲惨な描写は抑え目。
全体として軽妙なバンドネオンのBGMが流れ、いかにもな反戦アピールなどは感じられません。

このサリーという男がおもしろく、もともとは犯罪者ですから決して善良な人間ではありえないのですが、したたかに、知恵を尽くして、自分だけでなく仲間の命を守ろうとするんですね。

対照的な人物として、家族を殺された正義漢(ブルガー)が登場するんですが、サリーは彼のように、仲間を犠牲にしようとも理想を振りかざす事はなく、多くを語ることなく、ただ淡々と行動するリアリストなのです。
一見冴えない小男なのですが(理想家の方は割とイケメン)、その行動がとてもかっこいい…!
「かっこいいとはこういうことさ」という言葉を送りたくなります。
最後も実に粋です。

贋札技師っていうのは、犯罪者だからどこか欠落した人間だと思うのですが、残虐性や冷酷さとは関係のない犯罪だからか、どこか闇に生きる芸術家といった風情、かっこよさが漂いますね。
この映画でも、彼らにとって憎きナチに加担する犯罪ではある一方で
単純に職人として、良い贋札(←???)を作る充実感が感じられるシーンもあり、おもしろかったです。
ねむ

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