和桜

シークレット・オブ・モンスターの和桜のレビュー・感想・評価

3.3
ジャン=ポール・サルトルの短編小説「指導者の幼年時代」から着想をえて生まれた独裁者、その少年時代を描くフィクション。
「何が少年を独裁者へと変貌させたのか」というキャッチフレーズ。
「戦争の悲劇とは一人では悪になれなくとも、大勢でなら容易に善を忘れられること」という冒頭から始まる。

ただ、この宣伝文句を目的に見ると肩透かしを食らうかも。
ほぼ少年時代しか描かれていないため、それを理由にするのはさすがに安易だし独裁はまさに言葉だけの独裁。
原因があったとしても結果が明らかにされていないせいでモヤモヤ。
ムッソリーニなどの過去の人物をモチーフに独裁者を普遍的な概念として扱い、一人の人間として語ることがないため過去を語られてもしっくりこない。

一方で監督が語る「劇中で一見無造作に散りばめられたパズルを観客自身がつなぎ合わせていき、その先に何かが見え始める。」と言うパズルミステリーとしては様々な凝った演出があって面白い。
初見ではよくわからなかったけど、監督の解説を見ていると良くも悪くも意欲作だということは伝わってくる。

ひやっとする場面もいくつかあり、ラストも必然とはいえ中々に衝撃的。
独裁者というテーマを端に置いて、戦後移行期のピリピリした雰囲気の中で繰り広げられるダークな家族ドラマとしては良かったかもしれない。
和桜

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