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サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のRenのレビュー・感想・評価

3.5
Amazon Prime Video作品。ノイズキャンセリング機能付きヘッドホン、もしくは音響の良い劇場での観賞が好ましい一作。音響賞を受賞するのは当然の秀作だった。臨場感が素晴らしかった。

今作の音響を褒めないほうが難しい。ノイズ音やくぐもった音(=ルーベンに聞こえている音)がしたかと思えば、メタルの爆音やものが壊れる大音量にハッとする。メリハリをつけて観客を惹きつけ続ける。
音も聞こえない・手話も分からないときの孤立感が、観ていて心が苦しくなるほど。『ファーザー』が映像編集による主人公の追体験なら、今作は音響編集による追体験。この2作が同時に作品賞にノミネートしたのが凄く面白い。

ノンバーバルなコミュニケーションのシーン一つひとつにテーマが溢れていて印象的だった。滑り台をノックしたり、手話のスピードを競うゲームをしたり、ヌード女性のタトゥーを入れたり。

この映画のメッセージとして、「自分の人生は自分の選択で決まる」ことが考えられる。障がいを受容して前に進むか、医療技術をもって克服するか。映画では、どちらが正解かを明示することはない。人は自身の選択を経て生きないといけない。聴力を失ったルーベンがどのような選択をして、「聞こえる」ことに何を思ったのか。その果てを、今作最大のストロングポイントである「音響」によって、静かにかつパワフルに突きつける演出がお見事だった。
「サウンド・オブ・メタル」とは、メタル音楽のことでもあるし、直訳で金属の音のことでもある。タイトルの意味が2時間の本編を通してじっくり移り変わっていく。

めちゃくちゃ個人的な話だが、私自身突発性難聴で右耳がほとんど聞こえなくなった経験があり(今は完治)、普段そこにある音を失うことへの不安と狼狽に図々しいけど深く共感してしまった。私の場合は片耳だったのでルーベンとはまた違うが、あの喪失感がリアルに蘇ってくるようで、改めてリズ・アーメッドの演技に感服する。
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