はる

アヴリルと奇妙な世界のはるのレビュー・感想・評価

アヴリルと奇妙な世界(2015年製作の映画)
4.5
スチームパンクものということであらためて気になって観たが、これが面白かった。
オリジナルで書かれた本は大胆に歴史を改変していて、19世紀後半からが大きく変わっている。その変わった部分で考えることも楽しく、歴史改変SFとして優れていると思う。アニメーションならではのアクションなどの表現も豊かで、フランスの作品らしくバンドデシネの雰囲気を上手く取り込んでいる。

冒頭から知性を否定する為政者が示されて、ロドリゴとシモーヌが逃げるところでは勢いよく蒸気が噴出した。わかりやすくスチームパンクですよという演出だった。彼らのその後60年は描かれなかったが、ずば抜けた知能をもって当時より進んだテクノロジーを生み出していったか。そういう彼らだからこそ、早い段階で超がつく優秀な科学者たちを見抜いて拐ってきたのだろう。アインシュタインといった影響力のある科学者がいなかったらどうなるか‥という仮想に基づいて、エネルギー改革が進まずに石炭による蒸気機関に頼った結果、欧州の木材資源が枯渇しつつある、という世界が考え出された。ナポレオン3世が死んで普仏戦争はなくなって、その後の科学の進歩が極端に遅れた結果、おそらくWW1も無かっただろう。化学兵器による大量殺戮も無い。
政治と高等科学が結びつかなかったら、戦闘機や戦車は製造されないし、ロケットに高性能爆弾を積むこともない。今作でアヴリルが活躍するのは1941年ということで、われわれの世界ではWW2の真っ只中、フランスはドイツの占領下にあったはずだ。そうはならなかったが、政府や権力は高圧的で科学を戦争に利用したいという野望は変わっていない。

今作で面白いのは、ロドリゴ&シモーヌ側による地上文明での「電動機械狩り」が行われていたということ。メタ的に言うと「それがあるとスチームパンクじゃないよね」ということで、この作品世界のスチームパンク然とした見かけは彼らによって守られていたという構図が笑える。何しろ地下の「科学者たちの世界」では、相当な積載能力を有してかつ地球の重力圏を抜けるロケットが製造されていたのだ。1941年に。あそこにはコロリョフもいたし、かつてはツィオルコフスキーもいただろう。フォン・ブラウンはいなくても良かった。まあこの後で活躍するのかな。平和利用だけのロケット開発で。

あの世界でアヴリルは猫のダーウィンを老衰から救うためにのみ邁進していた。おそらくダーウィンもまた高い知能でもってさまざまな知識をアヴリルに与えてきたと思う。「命を救う」ために人生を捧げている主人公。「科学の使われ方」というのは今作のテーマでもあるし、自然との共生もまたそうだろう。
ラストはついついラピュタを重ねてしまうが、より荒唐無稽で歴史改変SFの楽しさに満ちている。
またあの動く家もハウルを思い出してしまうが、こちらはフランスの作品らしくヴェルヌなのかと。

喋る猫が出る作品は間違いない、ということも再確認してしまう素敵なアニメーションだった。
はる

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