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屍憶 SHIOKUの消費者のレビュー・感想・評価

屍憶 SHIOKU(2015年製作の映画)
3.7
・ジャンル
心霊ホラー/サスペンス/ミステリー

・あらすじ
あるテレビ局の若き敏腕プロデューサー、ハオ
彼は忙しい日々を送りながらも仕事を評価され、プライベートでは結婚を控えており暮らしは幸せの絶頂その物
一方で台湾の古い伝統行事である“冥婚”を扱う番組を彼は手掛けている為か近頃は不気味な悪夢に悩まされていた
その頃、女子高生のインインも16歳の誕生日を迎えると共に恐ろしい物を目にする様になり日を追うごとに憔悴
後に彼女はそれが霊だと知る事となる
面識のない男女にそれぞれ忍び寄る霊の影
やがて2人の運命は奇妙に交錯し…

・感想
台湾の伝統行事としてその手の話が好きな人には広く知られる“冥婚”を題材に実話に基づく物語を描いた心霊ホラー作品
作中では冥婚についてこう語られている
台湾では娶神主(チェシェンジュ)とも呼ばれる冥婚は「位牌を娶る」事を意味する
かつて男性優位の考えが根付いていた中国では未婚のまま死んだ女性は家族代々の墓に入れる事が許されず、現世を彷徨うとされていた
それを防ぎ成仏させるには遺族が娘の死後49日以内に“紅包”と呼ばれる赤い封筒に故人の髪の房や大事にしていた物等を入れて道端に置き、拾った男性と婚礼を挙げさせ式の終了後に嫁入り道具を全て燃やす必要がある
冥婚を挙げさせなければ故人の魂は強い力を持つ怨霊となって一族に何代にも渡って取り憑き続ける
以上が冥婚について

作品の印象としては思ったよりは良く出来ていた
ストーリーラインや心霊描写などは日台合作という事もあってか「リング」や「呪怨」、「仄暗い水の底から」等の2000年前後に公開された黄金期のJホラーを踏襲した王道の物
ジャンプスケアに依存する事なく背後にぼやけた姿で霊を映したり、水や血痕などを印象的に使ったり、といった世界観は前述の作品達への偏愛を感じさせてなかなか作り込まれている
ラストの伏線回収とそれによって明かされる真相も悪くない

だからこそ展開のさせ方が雑過ぎた
本作の物語はTVプロデューサーのハオと祖母から霊感を継いだ茵茵(インイン)という女子校生2人の話が交互に繰り広げられ同時進行している
それ自体は悪くないもののその2人の話が交錯するに至るきっかけが突拍子がなさ過ぎた
ホラー映画において空間移動はさほど珍しい物ではないにせよアレは無いでしょ…
心霊描写に凝るあまり、そこに尺を割き過ぎたのを無理矢理に帳尻合わせをした様に思えてならない
しかもインインに関しては重要人物なのに掘り下げが甘く真相を明かす為の装置以上の役割を果たせていなかったし…

個人的には序盤まで番組のリポーターとして登場していた日本人の女性タレント、奈々を活かせばもっと面白くなったと思う
彼女は単身、台湾に渡ってきたばかりの新人という設定だった
それに必然性を持たせ、怨霊は日本統治下時代の女性でありそれ故に奈々に取り憑きハオを誘惑させる
彼女からハオを救う為に婚約者、依涵(イーハン)は尽力するが怨霊はハオに取り憑いて殺害してしまう
こうした方が内容として面白かったんじゃなかろうか

またさも重要人物として登場していた霊媒師の老女、玄真(シュエンヂェン)
彼女にしても怨霊に歯が立たず呆気なく自殺へと追い込まれていて活躍していなかったのもアレだったけど、せめて彼女をインインの祖母にしていれば自然にハオとインインを繋ぐ事が出来ていたのでは?
ハオの親友でディレクターの凱翔(カイシアン)が奈々の起用を推していたのも彼の陰謀としていれば尚良かったと思う
現代劇である必要性も特に無いから怨霊と化した女性に可愛がられた親戚とでもしておけば話も矛盾せず済むし

あと勿体なかったのが前半では怨霊を鮮明に映す事を避けていたのに顔を見せるまでが早過ぎた点
怨霊のビジュアルが「コンジアム」の様に迫力ある物であればまだ良かったんだけどあのチープさなら引っ張って欲しかった…
加えてインインに付き纏っていた怨霊はハオに取り憑いた物ではなく憑依されたハオに殺されたイーハンだったんだからシャワー室でのからかう様な脅かし方は後の泣き咽ぶ姿と矛盾して感じられたり…

シリアスな心霊ホラーはとにかく緻密な作り込みが大事でハオの調査パートがある以上、それは余計に徹底されなければならなかった物だと思う
そうなっていなかったのがとにかく惜しい作品だった
公開が2015年ならもっと作り込めたんじゃないかな…とどうしても感じる
頑張りが感じられるだけにそれだけが残念
犬のゴア描写とか霊媒師の死に方とか心霊描写以外も良い場面はあったんだけどね…
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