sugar708

否定と肯定のsugar708のレビュー・感想・評価

否定と肯定(2016年製作の映画)
4.5
ホロコーストはあったのか、なかったのか。

恐らく真っ当な判断力のある人であれば、百人中百人が「あった」と答えるでしょう。しかし、我々はホロコーストに関して一体何を知っているのでしょう?

私は教科書で学び、ホロコーストを題材とした映画を数十本観て、ネットで調べた、その程度です。それで知り得て当たり前だと思っていた悲劇の知識が足元から崩れ落ちるかもしれない。

そう思うと今まで感じたことがない恐怖を覚えました。本作では名誉毀損をきっかけにホロコーストの有無を証明する裁判に発展するという事実に基づいた映画です。個人的にはホロコーストを扱っているのにも関わらず、生存者が法廷に立たないという切り口が面白いなと思いました。

本作を通して感じたことは第二次世界大戦から半世紀以上の年月が経ち、生き証人たちが減る中での歴史認識の難しさを改めて感じました。題材であるホロコーストは間違いなくありましたが、今なお世の中で続いてる歴史認識に関する問題の主張の中には否定と肯定、2通りの解釈ができるものも多くあります。

また、技術の発展や新しい証拠によって、今までAだと思っていたことがBに変わるというケースもあります。

本作は裁判を通して、我々が信じて疑わない当たり前の知識の危うさを描いているような気がしました。

一番印象的だったのは、デボラの会見の言葉です。「表現の自由はあるが、ウソと説明責任の放棄だけは許されない。意見は多種多様だが否定できない事柄がある。」これは誰にでも当てはまることなのかなと。

恐らくですが、アーヴィング氏の発言の全てが悪意に満ちたものではなかったと思います。裁判で言っていたようにその場のジョークというケースもあったのでしょう。その時点で彼は差別主義者であり、歴史学者の風上にも置けない人物であるのは間違いないのですが。

しかし、現在ネットでデマが拡散されたり、根拠もない噂で他人が誹謗中傷される事案を見ていると、間違った知識を信じ込み事実を曲解してることにすら気付かない、悪意のない悪意は我々も決して他人事ではなく戒めなければいけないのかもしれません。
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