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ナポレオンのsugar708のレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
4.4
ナポレオンが本当に愛し、真に求めたものはなんだったのか。

まずは何と言ってもホアキン・フェニックスでしょう。冒頭のマリー・アントワネットのシーンをはじめどんな重要な局面に置いてもどこか他人事のような表情、時折浮かべる冷笑、かと思えば惨めったらしく怯えてみたり、剥き出しの感情を見事に表現する姿はそれだけで価値のある映画に思えました。

本作が通して描くのは「虚しさ」でしょうか。

戦に勝利したものの愛馬を失うナポレオン、最愛の妻であるジョゼフィーヌとの情事、ロシア遠征、ワーテルローの戦い、彼のキャリアのピークともいえる戴冠式でさえ、その豪華絢爛さとは裏腹にどこか渇いている。
ある意味で観客は150分間、空虚さを観せ続けられるのだと思います。

ナポレオンの戦いに意味はあったのか。彼の大義とは何だったのか。彼は本当にフランスを愛していたのか。そんな答えのない感情が堂々巡りします。

しかし、その虚しさや渇きはナポレオン・ボナパルトという人間そのものなのかもしれません。

母から認められることに飢え、ジョゼフィーヌからの愛に飢え、権力に飢え、戦いに飢え、永遠に尽きることのない彼の野心は永遠に満たされることはなかった。

11台のカメラを使用したという圧巻の戦闘シーンとは裏腹に描かれる彼の虚しさは、英雄でもなく、悪魔でもなく、紛れもなく情けないただの人間でした。

それは同時に、現代社会で世界的に起こっている戦争や争いの無意味さを伝えようとしているのかもしれません。

軍事の天才でありながらナポレオン法典をはじめとする政治家としても優れた人物。その反面、ヨーロッパ諸国から食人鬼として憎まれたナポレオンの新たな一面を斬新な解釈と切り口で描いた素晴らしい作品だったと思います。
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