sugar708

ウーマン・トーキング 私たちの選択のsugar708のレビュー・感想・評価

4.4
彼女たちの決断は決して本意でもなければ、希望に満ち溢れたものでもない。それでも、彼女たちとその子どもたちが明るい未来を送れることを願いたくなる、哀しくも希望あるラストに圧倒される。

実際に起こったメノナイト共同体の事件に着想を得た本作は、閉ざされた宗教コミュニティで識字する権利すら奪われた、劇中の言葉を借りるのであれば「家畜以下」の生活を余儀なくさる女性たちが男性たちにされた性的暴行についてどう対応するかを討論する作品です。

赦して何もせず黙認するか、
残って闘うか、
立ち去るか。

選挙や民主主義という概念や知識を持たない彼女らが行う冒頭の投票シーンは、投票数が丸わかりという欠陥があるのですが、それが逆に本作のディテールがいかに細かいものであるかを感じさせました。

この映画はレイプやDV、ハラスメントといった様々な形の暴力を受けながらも声をあげることが出来ない女性たちや、旧態依然の家父長制・宗教の教えにによって人権すら与えられない女性たちの問題提起と、そこから自己を獲得して、自ら考え決断を下す様子が描かれています。

当初、物事について考えるという概念すら奪われた彼女たちはどこか当事者意識がなく、諦めも相まって他人事のように議論を始めるのですが、それが徐々に変わっていく様子を見事に表現しているのは、本当に素晴らしかったなと。

また、個人的にこの映画で一番胸を打たれたのは、彼女たちが見ているものが女性の「社会進出」「自立」「権利の獲得」といったフェミニズムの視点で描かれていない点です。

勿論、本を読んだり、勉強すらさせてもらえなかった彼女たちのバックグラウンドを思えば当たり前で悲観すべきことなのですが、彼女たちが考えているのは「子どもたちが安心して眠れて、傷付かずに生きることができる未来」なのです。

このままでは娘たちは自分たちと同じ道を辿ってしまう、息子たちはコミュニティの男たちと同じ人間になってしまう、そうならないためにはどうすれば良いのか。

その根底には「子どもには明るい未来を生きてもらいたい」という人間の一番原始的な想いが含まれているような気がして、一人の親として考えさせられるものが沢山ありました。

個人的にこのようなワンシチュエーションの会話劇の名作といえば、「十二人の怒れる男」や「おとなのけんか」が真っ先に思い付くのですが、それらと並んで話したくなるディスカッションムービーの名作だと思います。

ラストのマクドーマンド演じるヤンツ一家の決断には涙が出ました。
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