秋日和

雪 Neigeの秋日和のレビュー・感想・評価

雪 Neige(1981年製作の映画)
4.0
原色の街の夜の人々。ジュリエット・ベルトは世界を大雑把に昼と夜の二つに分け、昼の世界に少しだけ暗闇を注ぎ込ませている。
ストリップ小屋に映画館。時間を問わず闇に覆われ、見世物にのみ灯りを向けているあの空間の心地よさは一体何なのだろう。そしてあの空間への入り口には、必ず世界の境界線を示す膜のようなものが張られている気がする。いや、そもそもこの映画は膜だらけだったかもしれない。それはときに面会室のガラスであるし、またあるときは身に纏う服にさえも化けている。耳を覆うヘッドフォン=音楽が膜のように機能しているシーンもそういえばあった。膜が破壊されるとき、音が持ち主の外へと流れだす一連のくだりは、原色の街に於いてあまりにも素早く日常に溶け込んでいくように感じてしまった。
恐らく、ベルトが思う最大の<膜>的な物は鏡なんだと思う。ボクシングジムや衣裳部屋を始めとしてこの映画で一体幾つの鏡に出逢ったのであろうか。残酷さよりも個人への甘さを優先して捉えているような気がした装置ではあったけど、最後まで丁寧にきちんと張り続けていたのだからお見事お見事。世界の映し出し方として鏡をぽんと置いてしまうのは王道のやり方だけど、ジュリエット・ベルトは鏡=膜の裏側にまで考えが行き届いていたのだから素晴らしい。その装置が見せてくれる反対の世界がどのような構造になっているのか……という誰もが知っているクセに答えを出したがらない問いに対する彼女なりの解答なのかも(マジックミラーでないところが良かった)。そしてその部分でタイトルの『雪』と絡めてくる辺りも好きだよ!と言いたい。
張り付いてしまう自意識はどうしようもないけど、この映画に於いてただ一人だけ鏡に背を向けていた男の目が見えなかった、というのは面白い事実だと思うんです。鏡はときに人の目を見えなくさせるけど、彼の場合は一番最初に書いた二つの世界も<膜>も何もかも無効だったのかも。そういう人物を忘れずに描けた、というのは結構凄いことだと思うのだけど、どうなんでしょう。もちろん意識的にか無意識的にかは分からないけれど、いずれにせよ監督としてのジュリエット・ベルト、かなり好き。他の作品も観てみたいな。