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トゥルー・グリットのohassyのレビュー・感想・評価

トゥルー・グリット(2010年製作の映画)
3.5
「どこまでも美しい星空と死んだ馬、走る老人」


週末の午後突然のコーエン兄弟欲が沸き、未見の作品を探すと、これと、「バーンアフターリーディング」があった。
監督作では無いけれど「サバービコン」もまだ。
結構あるもんだ。

コーエン兄弟ということで前半は構えてみていたのだけれど、本作は彼ららしいパンチの効き過ぎた皮肉やブラックジョークは影を潜めていて、父を殺された少女と飲んだくれの保安官補による復讐譚を、素直にバディームービーとして描いている。

いや、もっと言えば純愛モノだ。
ジェフブリッジス演じる保安官補のコグバーンとマティという少女は、もちろん年齢がものすごく離れているので直接的なラブシーンなどは無いし、どちらかといえばお互い悪態ばかりをつき合っていてラブなどという描写はほぼ皆無ではある。
しかし、この信じられないほど荒みきった時代と土地で、一方は若い間荒くれ者として過ごし、年老いては飲んだくれで過激すぎる保安官補となった男と、もう一方は若くして父親を殺され、その復讐しか頭になくなってしまい、最終的には業を背負いコグバーンの隻眼同様罪の代償を負うことになる少女は、確かにお互いがお互いを求め合っていた。

あの、とにかくとにかく美しいクライマックス。
満天の星空の下、全てを投げ打って走り続ける初老の男(そしてリトルブラッキー!)。
これが純愛でなくて何であろうか。

同じ原作を元にしたジョンウェインの「勇気ある追跡」は、その時代に求められたいわゆる西部劇然とした作りで、それはそれで面白い作品ではあるけれど、本作は西部劇の形をした純文学作品として昇華されていて、また違った見応えがある。
1968年に発行された原作「勇気ある追跡」はそろそろ古典の部類に入るけれど、今なおアメリカ人に親しまれている小説らしいので、日本で言えば藤沢周平や山本周五郎にあたるのかな。
彼らの小説を原作としたいわゆる時代劇作品を思えば、確かに同じモノを持っているように思う。
複雑になってしまった現代では表現することが難しくもあり面映いことを、ストレートに表現できる貴重なジャンルだ。
日本の時代劇映画を見たくなってきた。

大人になったマティが突然放つ「Keep a seet,trash」は、コグバーンと生き抜いた自分にとって唯一の大切なあの時代、あの世界を、見世物としてキレイごと化されてしまったことへの、せめてもの捨てゼリフだったのだろう。
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