るる

笑う故郷のるるのネタバレレビュー・内容・結末

笑う故郷(2016年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

冒頭の演説、全てを物語っていたと思う、その上で、結末の着地点にひねりがあった、すごい。

死んでしまって池に横たわるフラミンゴ、あまりにも象徴的…と思ってたら最後にリフレインされて痺れた。

世界的文豪の、圧巻の蔵書、すげえ。有能な秘書、掃除婦のおばちゃん、ハイセンスな住まい、すげえな…

道端で見かけた看板、飛行機内、どこに行っても有名作家として扱われる感じ、さて故郷に戻ってどうなるのか

自分の紹介ムービーに泣く感性を持つ作家…もっと偏屈な作家が故郷の田舎に辟易する話だと思ってたので、あれっ、と思ってたら

おまえの元カノと結婚したと言いに来る友達、うへえ

「苦境が傑作の誕生を保証するとは限らない」これ大事、「芸術は不幸の産物ではない」もっと苦労しろとか、不幸でなきゃいいものは作れないとか、そういう言説を跳ね飛ばす言葉、大事だ…

「現実だけでは物足りない」と言いつつ、村での出来事、経験を小説にし続けてる作家、ひえー

車の中で元カノにキス、ちょっと嫌な顔する元カノ、なんともな。

若者から短編小説を託される、あるあるの連打、愉快だな

講演会で鋭い質問をしていた女子学生、親子ほどの年の差だぞ、と忠告した次のシーンではベッド上で裸でピザ食ってる、面白いな。

絵画コンクールの審査、作者の意図は関係ない、なんて正当な芸術批評! 気持ちいいな。

しかし、この審査がきっかけで風当たりが強く…

息子に車椅子を買ってやってくれと。ひとりだけ特別扱いはできないと。あるあるだな…でもやっぱり、故郷のために、とかなんとか理由をつけて、プレゼントしてあげるべきだよな、ノブレスオブリージュの機会…新たなしがらみが生まれることを嫌ったとしても…

「芸術は倫理やモラルに縛られない」どうなんだろうな、縛られないとしても、批評に晒されるのは当然だし、好き嫌いはあっていいよな。最近いろいろ懐疑的だ、倫理から外れた悲惨な内容の小説が現実の悲惨な境遇にある人間の心を救うことは当然あるとはいえ。
殺人犯が殺人の様子を書くことができ、読むことができる、そこまでは許したとしても、作者は利益を得てはいけないだろうし、その作品から影響を受けた人々が被害者遺族やその他誰かを傷つけてはいけない、それが遵守され、成立するくらい、社会秩序が維持されてなきゃいけない…
倫理から外れた芸術を楽しむには余裕が必要で、芸術に親しむ層ってのはリッチで身の安全を当たり前に手に入れてる連中だけども、庶民は…だいぶ難しいよなって

「美しい話を書けば?」「作家人生を問われる質問だな」講演の出席者は、こんな田舎は嫌だと思ってる層、まだ見ぬ芸術に憧れる層なのかもかな。。

元カノの家で食事、元カノとその夫の前で見栄を張りたいのか知識を振りかざす、ダメな話法だな…妻に熱烈なキスする友達、そんな友達に対して、一夜の体験を語る作家、そこに、帰宅する子供、あの女学生は元カノの娘だと知る、里帰り映画あるある、さすがに笑った

浮気はアリだと語る友達に表情が硬くなる、ホテルに戻るとあの娘が裸でいる、娘を追い出すと、血まみれの友達がやってきてベッドに仰向けに…えーっ? 死体が残って犯人扱いされるのかと思ったら違った、生きてた、動揺した…

故郷の街に銅像ができた、名誉市民としてのちょっとしたスピーチ、終わってすぐ「よくやってくれたね、偉いぞ」と上手に歌を歌えた子供たちを褒める市長、シュール。

絵画コンクールの審査、街の事情、芸術に真摯に在りたいのに…しかしまあ、街のコンクールには街の審査基準があるわけでな、本来なら特別賞を提案するとか、方法があったはずで、大人げないよな…

小説に父が登場していると信じ込んでいた青年を邪険に扱う、SNS時代にあんな対応して大丈夫なのか、そして恐らく父はモデルどころかそのまま登場してたんじゃないのか

荒れた実家、墓、メモ書きする、ホテルの前で売国奴と叫ばれ中傷ビラが撒かれ、彫刻には血を思わせる落書き、

絵画コンクールの授賞式で「文化における最善の政策は一切の政策を持たないことだ」クールジャパンを推進してる人たちに聞かせてやりたいね…「アフリカのある部族の言語には自由という言葉がなかった、なぜなら、自由だったからだ」「文化という言葉は最も無知なものが使う言葉だ、最も愚かで危険なものがね、私は断じて使わない」そして大暴露、あーあー…

卵を投げられ、田舎を痛烈に批判して去っていく、あーあー…

「短編小説、よかったよ」せめて良い出会いがあってよかったね…報われてほしいな、あの青年…

そして、狩り、ぎゃー、えーっ? 元カノの、娘の彼氏、うん…

そして新作タイトル「名誉市民」、どこまでも自分の体験を小説に変換し続ける作家、もはや業、すげえな…

作家はナルシストで虚栄心があるものだ、作品の中の、現実の割合を問われて、現実など存在しない、あるのは解釈だけだと、銃創を見せつける、演説と、拍手、"ヨーロッパの芸術"をありがたがる人々、愚かだよな…

でもカメラのフラッシュを浴びながら、そんな彼らを相手に商売し続ける、彼らの感情をくすぐり続ける…冒頭でも流れた、あの、凄みのある曲で締めくくる、

いやーすげえな、パフォーマーとしての売れっ子作家を描き切ってる作品、見応えがあった。

映画の内容、構造が、主人公の台詞、スタンスと直結しているのに、作為的な感じがあんまりしなかった、この手の映画にありがちな、芸術家の主人公に監督の思いを代弁させている感じが一切しなかったので、出来がいいんだと思う、
芸術家の台詞はどれもこれも、正論として一定のレベルを保っていて、理屈っぽいなりに、必要な説得力と生々しさがあって良かった。

レンタルDVDのパッケージに、故郷で巻き起こる悲喜劇、とあったので、笑って泣けるコメディかな? どんなものぞと思って手に取ったのだけれど、予想以上にヘヴィでウェルメイドで、内容がしっかりしててびっくりした、見てよかった、かな。女性作家版も見てみたいなと思った。
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