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アウトサイダーのSUIのレビュー・感想・評価

アウトサイダー(2018年製作の映画)
2.5
今作を観ていると、松田優作のブラックレインを思い出さずにはいられない。

戦後に日本軍の捕虜から日本のヤクザとなった元アメリカ兵(ジャレッド・レト)と日本の暴力団組織との関係性が、ニューヨークから来た刑事(マイケル・ダグラス)と日本の警察組織との関係性にそのままリンクするからだ。
共通しているのは異文化コミュニケーションの妙。
そしてなにより、今作の元アメリカ兵のヤクザもブラックレインのアメリカ人刑事も、同じニックという名前なのだ。
きっとなにがしかの影響は受けているのだろう、などと勝手に得心してしまった。

ブラックレインでは茶畑のど真ん中にある変な鉄工所で重要な会合をしていたり、当時の中国の日常風景と混同した自転車の大群を登場させたりと、リドリー・スコットのイメージ先行の誤った描写が幅をきかせていた。それでも松田優作や高倉健、若山富三郎といった圧倒的カリスマ性を持った役者たちの存在感で、マイベストムービーのひとつに数えられている。

今作においてはそんな日本に対する誤った思い込みや、それを押し付けるような我の強さこそみられなかった。
そこは評価できるが、痛くも痒くなさそうに指を詰めるシーンや、体面や体裁を重んじるヤクザ社会における親殺しの重大さや、盃の儀の場に乗り込んでいって暴れまわることを参列者(もちろんヤクザ)が黙認したりといった演出があり、やはり日本人のメンタリティーを捉え切れていないなあと感じてしまった。

もちろんこれはドキュメンタリーでなく娯楽映画だ。
そこまでリアリティーを重視する必要はないのだけれど、それを看過しても差し支えないほどドラマチックな映画に仕上がっていたかと問われたら、それほどでもない…、というのが正直なところだ。

ただ今作はブラックレインと比べて遜色ない仕上がりになっていたと個人的には思う。
ではどこがブラックレイン足りえなかったのか…。
それは、松田優作が出ていないことだ。高倉健が出ていないことだ。圧倒的なカリスマ性を持った役者たちの存在感が見られなかったことだ。
そういう意味合いにおいて、浅野忠信や椎名桔平はだいぶ頑張っていたと思う。彼らレジェンドと比較するのはさすがにかわいそうだとも思う。思うけれど、それを補うほどの魅力を出しきれなかったというのも事実としてある。
それが今作の評価を決定づけてしまった。
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