ベルサイユ製麺

武曲 MUKOKUのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

武曲 MUKOKU(2017年製作の映画)
3.3
これ、公開当時にラジオでしきりとCMが流れてて印象に残ってました!
実際に観てみると…
こんな特異な作品をラジオの音声だけで見に来させようとしてたのか‼︎と驚いてしまいます。

持ち前の筋の良さで、みるみる剣の道に引き込まれていく青年(村上虹郎)と、鬼の剣士である父に引導を渡し、その事実を受け止められずにドロップアウトしてしまった狂剣二世(綾野剛)。2人の彷徨える魂が惹かれ合い、そして激しくぶつかり火花を散らす。…山芋フェンシングを描いた作品です。嘘です。緊張感に耐えきれなくて…。
絵作り、良いです。虹郎の溺れるイメージもマジックリアリズム的で好みです。暗い中でも出来事を見失いませんし、撮影が全般的に優れている感じがしますね。
導入部分(特に虹郎の剣道への魅入られ方)が、ホントに漫画みたいで、きっと少年漫画的なスポ根物なのだと思いながら観進めてしまったのですが、中盤からどんどん観念的なお話になっていき、エンターテイメント性はどんどん後退していきます。となると、作品が立ち昇らせたかった精神性みたいな物にどの程度惹きつけられるかとか、作品世界への没入を促す心地よい構成とが鍵になってくると思うのですが、個人的には感応出来ませんでした。主人公たちが苦悩を深くすればするほど「まあ、いろいろあらーな」みたいに他人事感が強くなってしまって…。
いろーんな邦画に言える事ですが、苦悩の深さを描写の尺の長さと、声の大きさに反映させる演出は辞めた方が良いと思います。原作小説だって何ページも「ぅおおおぉ!」とか書いている訳では無いだろうし、もっと役者の表現力を信用してあげて欲しい。
映画の本筋とは何の関係も無いのですが、劇中で描かれる剣道、特に試合の動きの描写はある程度本物に即しているのでしょうか?例えばボクシング映画の試合の描写は、抽象化された“心の中のボクシング”なのだと呑み込めるになったのですが、近年ジワジワ増殖中の総合格闘技映画を見ていると比較的技術的に分かる事もあって「あー、そんな両脚揃えてみえみえのバスター狙っても草刈りの餌食だよー」とかイライラしちゃいます。今作のあの二人の剣道は“やってる感”、出てるのかしら?

うむむ。…ホントに作品の中身に触れてないな。遺憾。
綾野剛のどチンピラ感以上に、それを軽く許容している様に見える前田のあっちゃんが恐ろしく見えました。今作に限らず、作品のニュアンス的な部分を虹郎の存在感に委ねすぎな気がします。虹郎はなんだかいつもびしょ濡れだよ。冒頭で披露するラップが、ちょっとくぐもってはいますがShing02風で良かったです。フロウはもう一つですけど。

うむむむ。内容はもはや不可侵な領域に思えてきたぞ…。これはいわゆる死合というやつか?いや、そう。もう絶対そう。コレは潔くレビューを切り上げよう!作中にもきっと、“潔く諦める勇気も大事”みたいなメッセージの片鱗が、少なからず、ある事を否定出来ないのが現状と、思えなくも…。