ベルサイユ製麺

立ち去った女のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

立ち去った女(2016年製作の映画)
4.4
動きの少ないモノクロの画面を無心に見つめていると、不思議と画面のフレームがじわじわと拡張していく様な感覚を覚えた。気がつけば視界全てが作品世界に飲み込まれ、自分はその中にただ眼差しとしてのみ存在するかのようだった。ひたすらに美しい構図の中を彷徨う、意思のない、ただの視線。
やがて時間の観念も無くし、街灯に照らし出される夜の坂道を、卵売りの声を、ホランダの悲しくも滑稽な踊りをいつまでもただ感じていた。

研ぎ澄まされた信念は映画の隅々にまで行き渡り、思惑通りの完璧な着地を見せている筈なのに、それで何故こんなに救われない気分にさせられるのだろう。
この作品は私の中から一向に出て行かない。未だゆっくり、くるくると同じところを回り続けるだけ。
時間はただの目安。長くも短くも無い。進みも戻りもせず、螺旋に連なって朽ちる。
『立ち去った女』は自分の中に永遠に共にある。