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空海 ーKU-KAIー 美しき王妃の謎のケーティーのレビュー・感想・評価

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中国映画ならではの映像美とスケールは見所あり。個人的には、前半のとんでも映画な展開が好きだったが、中盤で失速。ただラストはやや盛り返す。


どうして空海が事件を調査するのかが本作の最大の謎である。一応、白楽天が祈祷師だと役人に告げ、事件の捜査に協力してもらうくだりはあるのだが、今一つよくわからない。あるサイトのあらすじによれば、この事件を解決すれば空海が行きたい寺院に行けるかもしれないという白楽天のアイデアらしいが、そこまで言っていただろうか。ひょっとしたら、私が聞き逃したのかもしれないが、少なくとも繰り返しは強調されていない。また、空海が行きたかった寺院に行けなくなるくだりも一番初めに出るだけで、その後は空海がそれに執着している様子はない。特に、ラストの空海の選択はそのことを物語っている。そのため、やはり謎なのである。

しかし、一緒に観た友人と飲んでて、それは空海が白楽天を好きだからで、これはBLなんだ、二人の愛は楊貴妃の愛の物語とリンクしているんだと考えれば納得した。白楽天もまた楊貴妃にある意味取りつかれており、空海は大好きな白楽天が心配で心配で守ってあげなきゃと思ったのだろう。そう考えると、ラストに身を引くネコと、本当は送り出したくないのに空海のためを思って送り出す白楽天が重なる。と、こんな半分妄想も絡めて話題は弾んだが、主人公二人のキャラが立ってないことは本作の紛れもない事実。ホントに恋愛させなくても、それを匂わせるようなもっと会話の絡みがあると、作品自体がもっと盛り上がっただろうと感じた。(要するに、一部のファンにこれはBLだと囃し立てられるくらいの仲の良さ、あるいはやり取りがあってもいいということ)

もしかすると、中国版だと空海と白楽天のやりとりがもっと激しいのかもしれないが、吹替版だと二人の人物の違いが弱く、キャラだちしてない。(もっとも高橋一生さんの演技自体はうまい。そのため、単に高橋一生さんと染谷将太さんというイケメン二人を並べれば集客が見込めると思い、個性の違いの面白さなど考えなかった製作側が悪い)

刑事物なら事件を追う動機は簡単につくれるが、そうでない場合は主人公の動機をしっかりつくることの大切さ。そして、これは刑事物でも同じだが、事件を追うバディの人物の作り上げの面白さが大切だと改めて感じた。

そのほか、ストーリー自体が生肉とかすいかとか結末部分には伏線が序盤であるものの、謎解きは伏線なしにひたすら説明ゼリフで実はこう、実はこうと、どんどん解決していくので雑。中盤からは、ずっと空海と白楽天の説明の会話だけで絵もおもしろくないので、退屈なのである。

一方で、もともと聞いてた前評判通り、映像の美しさや外連味、そして楊貴妃の綺麗さは中国映画ならではのよさもあり、いい。

特に中盤までは、なかなかの猫主体のとんでも展開で、厳密には違うのだが、往年の大映や日活の娯楽映画に似たエンターテイメント性がある。猫が妖術で長安の人々を脅かしたり狂わせたりするところは、映像美も相まって、なかなかのアクションの見せ所で、このとんでも展開に笑ってしまうほどだが、それがいい。遊郭のシーンや宴で人が狂うシーンなどは特に、映像美もあいまってよかった。
もっとも、作品としては、どこかハリウッドの本格派を意識しているところもあり、もっと大映や日活のある種お金はかけてるけどチープなエンターテイメントに徹すればよかったのにとは思う作品でもある。特に前述した二人の会話が延々と続くシーンでは、それを感じた。


【捕捉】
細かなシーンでよかったなと思ったのは、2つ。

まず1つは、町並みを空海と白楽天が歩くシーン。ここは、延々と会話で説明するシーンではあるのだが、実際に作ったという豪華なセットとエキストラがとても魅力的で、単に会話で説明するシーンでも、歩きながら行い、背景を変えるだけでこれだけ印象が変わるのかと、定番のやり方ではあるのだが、改めて勉強になった。また、この歩くシーンの中で、特にいいなと思ったのは食事のシーン。二人はずっと会話をしており、そのなかで一瞬お店の食卓につき、料理が運ばれると、蓋を空けるといきなり火が出て驚き、すぐ次のシーンに行く。このシーンのよさは、歩くだけでは単調だから食事シーンを入れる。しかし、その中にも驚き(工夫・アイデア)を用意し、それでいて食事をするという単調なシーンは思いきって省くし、驚きわっとなるとこだけ一瞬見せて楽しませ、その後本筋がずれないようその話題で尾を引かないようにする。このあたりの工夫はいいなと感じた。

もう1つは、楊貴妃登場シーンでの皇帝登場の仕方。ここは普通は玉座に座っている皇帝が楊貴妃を迎えるというふうに描写してしまうが、ちょっとしたユーモアがある。そして、ここでの皇帝の登場の仕方こそ、皇帝が楊貴妃を愛していることがよく伝わるし、皇帝のチャーミングさを出すことで、それが後半では裏返り愚かさや弱さにつながっていくことがよくわかるのである。


【捕捉2】
阿倍仲麻呂は一応原作にも登場するようだが、本作ではストーリー上、完全に添え物扱い。正直、集客のために日本人俳優を出せる役を作りたかったために足した感が否めない。正直なところ、前述したように楊貴妃のストーリーもそこまで前半と絡んでなく、ストーリーが足し算で作られていてよくない。このあたりは、典型的なオールスター映画の失敗パターンである。本来、映画は役を絞ってそれをどんどん絡ませていき、その絡み合いがわかっていく方が面白いのである。
ただし、密かにある女性に想いを寄せるという役どころ自体は、阿部寛さんにピッタリだし、演技もやっぱり上手いなと感じた。