ベルサイユ製麺

トッド・ソロンズの子犬物語のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

3.5
展開されるのは、表層だけ見ればウディ・アレン的なテンポ感のオフビートコメディ。しかし描かれるものはどこまでも不遜で露悪的。我慢して観たその先に何かあるのか?を確かめようと苦笑いでやり過ごすか、いっそ観るのをやめてしまうか…。

如何に他の作品で真面目ぶったレビューを書いてみたところで、わたくしはトッド・ソロンズ作品を毎回観てしまうような人間なのです。
彼の作品の何に惹かれているのかサッパリ分からない。でも一作目から全部観ている。
トッド・ソロンズはいつも、人間の平熱の状態から突如滲み出す“醜さ”“無様さ”をカタログの様に並べて見せてくれて、自分はそれを安全圏のショウルームで足を組んで「ひどいねぇ」って笑いながら眺めているのだけど、フと気がつくとその“”醜い人間達”は皆、“わたくし”の顔になっているのです。醜い人を、笑っている醜い人を、笑っている醜い人を、…。

トッド・ソロンズ作品では多くの場合イノセンスが物笑いの種になり、時としてそれはハンディキャップのある人達だったり、信仰の深すぎる人々であったり、それらの組み合わせであったりするのですが、今作に於いては仔犬という記号に置き換えられています。“純粋さ”“従順さ”“殉職者”“憐れむべき者”の象徴としての仔犬を巡る、いくつかのスケッチ。仔犬は必ず犠牲になり、かつ救いは誰にも訪れません。…トッド・ソロンズはいったい何から何までを嘲笑っているのだ。
コレは今作の割と大きな問題だと思うのですが、“犬”という生き物との心の距離感によって描かれる事柄に対する感じ方が大きく変わってくるような気がするのですよね。
自分は小学校の校庭で、まるで漫画みたいに犬に追っかけられてからずっと犬がちょっと怖い。別にキライって訳では無いのだけど、ゴリゴリの猫派な事もあって、劇中のワンちゃんが人間のエゴの慰みモノになっても「まあ、元々そういう側面はあるよねぇ」と思う程度で、そんなに心は波立たない。同監督の『終わらない物語』を観た時の様な、名状し難い不安感、不快感は今作には、無いかなぁ…。
中盤のアホみたいなインタールード(90分もないのに‼︎)には、割とみんな笑っちゃうのではないでしょうか。あと個人的には終盤で出てくる“諦めた自分達”との邂逅シーンはヘンリー・ダーガーのヴィヴィアンガールズみたいでオモロ恐ろしかったですね。
当然ですが犬好きの方には全くお勧めできません。気まずさエンターテイメント愛好家にも、お勧めするとすれば他の過去作になってしまいます。個人的には醜い自分と否応無く向き合う時間が必要だと思っていますので、彼が作品を作り続け(られ)る限りは付き合っていこうと思います。
ところで、この邦題『子犬物語』。うっかり愛犬家が見ちゃう事を狙って付けたのだとしてもなかなかの酷さですが、もしかして歴史に名を刻む動物虐待映画『子猫物語』に対する当て擦りなのだとしたら、一番悪意に満ち満ちているのは日本の配給会社なんじゃないかしら?悪いなー。
因みに敬愛する中原昌也さんも今作におススメコメントを寄せております。流石!