ろ

ワイルドライフのろのレビュー・感想・評価

ワイルドライフ(2018年製作の映画)
5.0

落ち込む父を励ましていた気丈な母は、ある日を境に「宿題をしなさい」の小言さえ言わなくなった。
夕食を作らない母は、長電話をする母は、背中のざっくり開いたドレスをなびかせる母は、僕の知らない人みたいだった。


両親は親である前に、とても未熟で繊細な、一人の人間だ。
時には子どもより子どもで、だからこそ子どもは大人になっていく。

父も母も、折り合いをつけているつもりでいて、不器用に見える。
会社で張り詰めた分だけ家では電源をオフにする父と、パソコンや映画の時間を邪魔されてイラつく母の、板挟みになるのは私だ。

昨日の夜、「もう1ヶ月ぐらい前から我慢して、自分の機嫌を取っているけれど、本当は何もしたくない。そういうときがある。」と母は言った。
その母の気持ちをこの映画は代弁しているようだった。
小さなコミュニティの中の、“母親”という役割(立ち位置)に疲れることもあるよなと、なんだかすごくしっくりきた。


山火事の消火活動から帰宅した父親は息子とバーに行く。
「おまえ、相手を知ってるのか?もしかして会ったのか?」
「・・・うん。一度だけ。うちに本を借りに来た。」
不安げに横顔を窺う息子。
無言で怒りを噛みしめる父。
「それで、次に会ったのはいつだ?」
母の浮気について知りたい父と、母を庇い父を傷つけたくない息子。
二人の静かなやり取りがあまりに残酷で切ない。


「幸せな瞬間を収めたくて、人は写真を撮るんだ。」と写真屋のおじさんは言った。
でも息子は、幸せじゃないかもしれない今この瞬間に向けて、シャッターを切った。







( ..)φ

家族写真といえば「麦秋」がパッと浮かんだけれど、受けた印象が全く違った。
「麦秋」は大家族、映るのは理想の家族の形。
「ワイルドライフ」は核家族、映るのは別居した父と母、その間を取り持つ息子。
描かれる家族の姿がとても生々しく、それでも両親のすべてを受け入れる息子の愛があまりにも深かった。
もしも映画を作るなら、こういう映画が撮りたいと心が震えた。
ろ