ニトー

羅生門のニトーのレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
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てっきり髪の毛の方かと思ったんですがなんかまったく知らない話だった。と思って調べたら芥川から「藪の中」も持ってきていたらしい。あれか、「魔王 juvenile remix」みたいな感じか。こっちは読んだことなくてまったく気付かなかったんですが、後から青空文庫で読みましたです。ええ、短いしタダだし。科白に置き換えられたことでかなり印象が違う。特に多襄丸。三船敏郎のせいで完全にやばいやつになってますがな。

 しかしこれ、原作を知らない方が楽しめる気がする。全員が全員、迫真で真実(彼ら自身にとっての)を口にするものだから、誰が一体正しいのかわからないし、だれもが正しいとも思えてくるわどれもが疑わしくも思えてくる。そういう意味じゃ、人間の醜さを全面的に描いているだけじゃなく、ある種のミステリーっぽくも見える。

 とはいえ、かなりアレンジが加えられているし、ラストの方や原作にはなかった「実は…」という展開も実に皮肉が効いていてよろしい。白黒映画ということもあって影と光が映えるのも、普段はカラーで見ている分余計に強く感じる。草葉の影と陽の光で三船敏郎の顔が陰陽のようになっているのとかすごいかっこいい。もちろん、三船の顔面力ありきなんだけど。というか、あらためて三船の唯一無二性に気づかされた。この人眼力もそうなんだけど、瞬き全然しないんだよなー。それが余計、ヤバさに直結している。すごい純粋さと粗野な部分を持っていて、七人の侍の菊千代の片鱗がここですでに見えている。

 あとカメラワークも独特。今まではっきりとカメラワークでほかと違う感じのことをしているっていうのがわかったのは小津なんだけど、黒澤もあんまりほかでは見ないような撮り方をしている気がする。手前に人物の背中を配置しながら奥の方の人物に喋らせて、横にパンさせながらまた戻ってみたいな。

 しかし最後の最後の志村喬の表情とか、あれってやっぱり悪意なんだろうか。とか色々と考えてしまう。ぶっちゃけ、三人が嘘をつこうとして嘘をついているのかっていうのは、実は怪しいところだったりするんですけどね。いや、作品的には意図的に嘘をついているんですけど、ただ人間の脳は本当に思い出を美化していたり都合よく書き換えているということが実証されているので、その科学的な本質を文学的側面から暴いてしまっているという意味で「怪しい」ってことなんですけど。

 それとウィキの公開と制作の箇所が読んでていてすごい面白かった。まったく無関係のベトナム人が授賞式に出るってどういうことよ。あとまんま羅生門な映画会社の人間の話とか。

 というか、そんな難解な映画かしらこれ。むしろストレートにわかりやすいと思うんですけどねー。
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