海

彼女がその名を知らない鳥たちの海のネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

十和子の行きたがった無限の死滅、子宮のような砂漠というのは、陣治の中にあるものだった。十和子から陣治へと、向きを変えていく時、さからえずあっという間に、すっぽり腕の中におおわれてしまうような感覚が、確かにあった。陣治が十和子に向ける愛情は、母親が子供に向けるそれによく似ていた。陣治は別れ際、十和子に言う、「子供を産め。その子が女の子でも、男の子でも、それは自分だ、おまえの腹の中に生きる。」十和子の肩を掴んで、飛んでいかないように自分の方へ抱き寄せて、消えてしまわないように汚れた手のひらでさすって、いやがるのを何度でも、生きろと伝えた。生きなくちゃだめだと伝えた。すべてが明かされる時、共感できない愛も、愛と呼べない愛も、綺麗に姿を消す。
陣治が、とわこ、とわこ、と呼んで、わたしはその「とわ」の部分に、永遠をみていたような気がした。
沼田まほかるの小説は、「ユリゴコロ」と「猫鳴り」を読んだ事がある。そして「猫鳴り」で、こんな文章が出てくる。
「母子は二人きりの透明な密室の内部に居て、男女の愛よりももっと濃密に赤裸々に、あらゆる手段を使って結び合っていようとしていた。」
「愛じゃない」と言うだけならいつも簡単だ、でも、そんなわたしたちを決して恐れなかったから、作者はこれを書けた。
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