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海辺の生と死のalmosteverydayのレビュー・感想・評価

海辺の生と死(2017年製作の映画)
4.0
「死の棘」ならびに「『死の棘』日記」、息子夫婦とその娘による3人展「まほちゃんち」、近年では新潮にて長期連載された梯久美子によるノンフィクション「死の棘の妻」が刊行されるなど何かとご縁を感じてやまない島尾敏雄とその妻ミホ、戦時中の出会いを描く物語。つまり「死の棘」の前日譚にあたる命がけの恋が、奄美にルーツを持つという満島ひかり主演のオールロケで映像化されているわけです。こんな素晴らしいキャスティングそしてロケーションがあるだろうか、とめちゃくちゃ期待して臨んだのでした。

何よりもまず驚かされたのは、映画全体を取り巻く時間のたおやかさ。せりふ回しがのんびりしていて、会話にたっぷりと間があって、鳥のさえずりや打ち寄せる波音が絶えず響く島の風景は、戦時下であることさえ忘れてしまいそうにのどかな日常そのものでした。次第に激しさを増す戦況、命の終わりを覚悟するにつれ燃え上がる恋。いつ訪れるとも知れない出撃の日を待つ二人が初めて互いの身体に触れるその瞬間は、まるで断崖絶壁のてっぺんで互いの存在を確かめ合うかのように切実でそして獰猛でした。派手な演出も凝ったカメラワークもドラマチックな音楽もない抱擁が、これほどまでに艶かしいなんて。すごいものを見ました。

島の人ってかこどもの演技が棒だとか、戦時中にその服は存在したのか?という時代考証の緩さとか、時々誰が何を話してるのかわからない問題とか、敵襲が爆竹程度のしょぼさだとか、詰めの甘さはいろいろあるけど島の空気と主演の二人がすべてと思えばそのへんの瑕疵はむしろ愛すべき隙のようにも感じられます。満島ひかりの匂い立つような存在感、永山絢斗の痛みを堪えるみたいな表情の色気、とてもよかった。
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