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Firebird ファイアバードのalmosteverydayのレビュー・感想・評価

Firebird ファイアバード(2021年製作の映画)
3.0
ちょうど一年ほど前に観た「NOVENBER/ノベンバー」が強く印象に残っていて、日本での配給がごく少ないエストニア映画をもっと知りたく劇場へと足を運びました。結果、想像とはだいぶ勝手が違っててびっくり。わりと序盤から「思てたんと違う」の連続でした。

本作が実話を元にしている点はざっくり頭に入れた上で臨んだつもりでしたが、思った以上に忠実な作りというか同性婚まわりの法整備を訴えるプロパガンダ的意図を強く感じるというか、当事者の足跡をより正確に知らしめることを最優先したのだなあ…と思えるつくりになっていました。大まかに言えば出会いから別れまでの5〜6年を描いているのだけれど、その選択が起伏を欠いた散漫な仕上がりを招いていると感じます。

なんて言ったらいいんだろう。同性間の愛を「そこはもう織り込み済みでしょ?」とばかり端折るんじゃなく、軍隊という過酷な環境下で心を通わせ合った末の帰結として描いてくれたらなあ、と思っちゃったんです。ばっさり言えばタメがなさすぎ。カタルシス皆無。「他のガサツな奴らとはひと味違う特別な僕たち」の性愛が体感およそ30分未満でサクッと成就しちゃうもんだから「…この後どこにクライマックスを持ってくるつもりですかね…?」と首を傾げてしまいました。

具体的には、キービジュアルのあの海でおそらく同時に果ててるっぽい件を飛び立つ2機で表現された際は「マンガかよ〜」と呆れながらも突っ込まずにはいられなかったし、ソチ行きの列車に来てくれるの?発車しちゃったよ?いやホラやっぱり来てた〜!から画面が切り替わった瞬間即刻しっぽり同衾してる辺りなんかはもうね、2時間ドラマのお約束かな?ってくらい演出が陳腐で正直観てらんなかったです。製作陣が幾度にも渡りすっ飛ばし続けた心の機微こそ、わたしが観たいものだったよ…

というわけで演出や展開には文句タラタラながら、ミリタリー周りの細かいギミックは手が込んでたし(戦闘機まわりは過去のアクション大作の豪快な金のかけ方を念頭に置けばさすがに安っぽいと言わざるを得ませんが)俳優たちの目で語るお芝居には説得力があると感じました。主人公セルゲイを演じたトム・プライヤーは脚本を監督と共同で手がけたほかプロデューサーとしての顔も持つそうで、また他の作品でお目にかかれたら嬉しいです。
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