ケーティー

ミックス。のケーティーのレビュー・感想・評価

ミックス。(2017年製作の映画)
4.5
ラストでタイトルに込められた意味(テーマとメッセージ)がわかる現代のおとぎ話であり、エンターテイメント作品。もちろん、笑いも満載。


奇抜で非現実的な設定。これは漫画家のアシスタントをしていた脚本家古沢良太さんの個性がふんだんに出ており、蒼井優さんや生瀬勝久さんなど豪華な俳優陣の個性溢れる演技も相まって、パワー溢れる面白さになっている。
しかし、そんな時として奇抜で非現実的な設定ながらも、作中の人物の感情のどこかに普通の人が感じる悩みや葛藤などを刷り込ませることで、思わず共感し感動できる作品になっている。

設定やストーリーの面白さ、脚本としての捌きの上手さ(※1)もさることながら、人物の設定がしっかりつくられていることが、共感と感動を呼ぶ根源になっている。

特に主人公二人の設定がうまい。同じ悩みを抱えて卓球場にやってくるものの、多満子と萩原には違いがある。それは、一方は夢に向かって頑張り続けることができるのにそれを自分でやめてしまったのに対し、もう一方は夢に向かって頑張りたくてもそれができなくなってしまったこと。この対比がうまく、二人が距離を縮め、また多満子が自分を変えるために決断するシーンでうまく効いていて、作品に深みが出ている。

その他の人物も良く出来ていて、卓球場に集まるメンバーにはそれぞれの事情があり、その変化をちゃんと描いている。また、人物設定と俳優の個性が合っている。キャスティングが実にうまくいっていて、個性ある役者をうまく配役しつつ、全体のバランスもとれている。(※2)特に農家の夫婦を演じる田中美佐子さんと遠藤憲一さんが個人的には好き。田中美佐子さんは安定のうまさで、脚本も大福などの小道具を要所々々でうまく使い、人物ならではの前からつながりある行動で物語を描写(あるいは進展)させていく。また、本作の遠藤憲一さんは私が観てきた作品の中では一番本人に合っていてよいと感じた。しみじみとした農家の中高年の味わいがよく、農園でのシーンなどは特にいい。そのシーンでの最初と最後の変化も、個人的にはベタだが好きだった。

唯一本作の欠点を上げるなら、ラストの演出がダサいことだろう。ここだけは、どうしてもテレビ局が作った映画の典型的な悪い演出だと思う。

しかし、それは些細なことで、全てに伏線のあり、よく練られた脚本と力のある俳優陣がすごい。
よく練られている作品だけに、もう一度観て、分析したい!


※1)作品の捌きの上手さは流石で、特に前半などはワンシーンを1つのセリフでうまく捌くのがうまい。
例えば、誕生日を祝おうとケーキを持ってきて、多満子が「サプラーイズ!」と言うシーン。この一言で、余計な会話を入れなくても前後の状況を説明できてしまううまさがある。また、練習段階を見せるモンタージュなども、荷物を運ぶシーンで仕事の取り組みの変化をうまくみせたり、うまい。

※2)ワンポイントで出てる俳優もよく、特に真木よう子さんは本作のある意味象徴的な存在(テーマを伝えたり、主人公を動かす存在。あるいは、主人公のポリシーを伝える存在)としての役割をしっかり果たしていて、その存在感や観客にしっかり印象を残す芝居がよかった。他にも、蒼井優さんの強烈な演技にも驚かされた。実にいいのである。また、全体のバランスという意味では、上手い役者を揃えつつも、瀬戸康史さんのように箸休め的な存在になる人もいて、バランスがいい。江島役は、例えば千葉雄大さんあたりがクールに演れば、もっと切れ者でイヤらしく、それでいてとことんカッコいいだろうが、それでは作品自体に余裕がなくなっていただろうし、江島が冷徹になるほど、多満子の悲哀(悲惨さ)が強くなりすぎて、観る者の心に余裕がなくなっていただろう。そうすると、コメディとしてゆるく笑えなくなってしまう。本作はシリアスなシーンを描きながらも、そのあたりが絶妙なのである。


[捕捉]
ノベライズ版では、小笠原の描き方が異なるらしい。そもそも多満子と同じ一般社員の後輩で、江島と付き合うことの苦悩を多満子に吐露するシーンもあるという。おそらく初稿などではそうした設定であったものを、作品としてわかりやすくするため(卓球場のメンバーと対比をはっきりさせるため)、敢えて削ったのだろう。その選択は、エンターテイメント作品としては成功である。しかし、そうしたそれぞれの人物設定や心境を考えて作り込まれているからこそ(その段階を踏んでるからこそ)、本作が面白い作品になっていることも忘れてはいけない。