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ハウス・ジャック・ビルトのMasatoのレビュー・感想・評価

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
4.5

鬱映画大好きなので初日初回見てきました。

昨年カンヌで物議を醸した(いつもの)トリアー監督作。海外批評家からは100点から0点までいつもの賛否両論。もともと連続ドラマとして作られていたが、152分もの長尺で映画化となった。

正直この内容で連続ドラマだったら見る気失せた。シリアルキラーの12年間にわたる殺人の思い出を無作為に5つのエピソードを選び描く。

ここまで非道徳・非倫理的で前衛的でイカレタ映画を現代に作ってくれるトリアー監督に敬意を表したい。R18とのことで期待していたが、グロテスクというよりも、非倫理的な描写からくるものだと思われる。途中で「こりゃカンヌでの途中退席は当然だわ」と確信して思えるシーンがあった。さすがにあれは欧州以外では中々出来ないと思う。

私がこれまでトリアー作品で見てきたのは、「ダンサーインザダーク」と「メランコリア」だが、あれはまだトリアーの意地の悪さというか嗜虐心が顕著に出ていただけだったが、今回は本気で頭おかしいとしか言いようがない。

よくアダム・マッケイ監督がマネーショートやヴァイスでやってたような、資料映像や静止画をサブリミナルに写しだし、モノローグで用語の解説をしだしたりする。ジャックが繰り広げる行動や思考の様々なメタファーや解説を偏執的に解説していくので、ややドキュメンタリーぽく感じるが、まあ宗教的かつ芸術的かつ変態的で意味不明。

ジャックは一種のネクロフィリア(屍体愛好)のようなもので、殺人の快楽や死体を自身の職業である建築士の芸術性に重ね合わせて、死体こそ最高の芸術であると思いながら、家を建てるかのごとく人を殺していく。全編にわたるトリアー特有の調子の悪い歯車のような不快感が見事。

ボブディランのMVの真似事したり、嘆きのピエタみたいなことしたりとユーモラスな演出は多数あり、まあ面白いこと。ジャックが度々笑わせてくるが、内容的に笑うに笑えないブラックユーモアさが最高。

ラストなんて、ハテナマークが付いて離れない。本当に意味がわからないけど、理屈を求めてはいけない超自然的・超現実的な描写は個人的には好みなので、ありがとうと言いたい。

メタ的な描写もあるから、トリアーの自分自身に焦点を当てた映画なのかな?と思われる。いつものごとく、楽しそうに映画作ってるなと感じられるからコッチも楽しい。

アリアスター、ミヒャエルハネケ、ギャスパーノエとラースフォントリアーは最悪な映画の希望。シリアルキラーの思考を紐解き、ただ人を殺しまくるだけの映画。最高。

キャストについて、ヒトラーを最後に久しぶりに見たブルーノガンツ。かなり年老いて驚いたが、見事な存在感。遅ればせながら、ご冥福をお祈りいたします。
今回のマット・ディロンはシリアルキラーの演技が大変素晴らしい。序盤の「警官」のくだりは本気の狂気すら感じられた。本作で一気に俳優としての魅力がひしひしと感じられ、今後の作品にも注目したい。ここ数年の映画の中でも最高レベルの演技。賞レースレベル。

追記
これ鬱映画ではないです。コメディです。結構笑えます。
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