あーさん

Ryuichi Sakamoto: CODAのあーさんのレビュー・感想・評価

Ryuichi Sakamoto: CODA(2017年製作の映画)
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☆例によって音楽のドキュメンタリーなので、自分語りを含む思い入れが強く長めの感想になっています。。
苦手な方はどうぞスルーして下さいませm(_ _)m



坂本龍一との出会いは…
私の場合、やはりYMO。
小6の頃、学校にカセットデッキを持ってきていたツンツンにトンがったYくんが、やたらめったらかけていたのがYMO。彼は早い反抗期だったのか、常に先生に噛み付いて、それは見ている方もキツかったけど、今思えばナイフみたいな心を持て余してたんだろうなぁ。。

そんな時に信じられるものは音楽。既成の概念をぶっ壊してくれる自己主張がそこには凛と存在していた。音楽ってすごい♫

"皆仲良く、、なんてできっかよ!
カッコいいものだけが全て。
嘘臭い優しさとか、しんどい人に寄り添うなんて、知ったことか!
大人が言うことなんて信用できねーし!"
中学受験組の彼は、小学生と思えない大人っぽさを放っていた。

Yくんの心の叫びが、私には刺激的で眩しかった。数年遅れてやってくる私の反抗期になって初めてYくんのささやかな抵抗にどんな意味があったのか、よくわかった。。

中国の人民服を着て無機質な声で"TOKIO,…TOKIO…"なんて言ってるバンド、他にはなかった。

敬愛するRCサクセションの忌野清志郎、矢野顕子を知ったのは少し後の中1の頃。同じクラスの男子がやっぱり清志郎愛を語っていて、染まりやすい私はよくわからないけど、なんかカッコいいなと、どハマリした。
日和見主義の大人や自分勝手な周りの人間に言いたくても言えないことを、音楽で鳴らしたり歌ったりするって気持ちEなぁ…と感じていた。でも、親は急に変わった私に戸惑っていたかも笑
坂本龍一の元奥さん、アッコちゃんこと矢野顕子のことは塾が同じだったMちゃんが教えてくれた。交換日記の中身はそんな話だらけ。
化粧品のCMで流れる坂本龍一&忌野清志郎の♫い・け・な・いルージュマジックにカルチャーショック!たのきんとかどうでもいい!これだ!と思った。
"人の目を気にして、生きるなんてくだらないことさ"という歌詞は当時の自分にズキューンと響いた。
それから毎年、大晦日にはいけないルージュ風メイクをして妹と音楽をかけて踊りまくった笑 (曲は映画"フラッシュ・ダンス"の♪マニアックをヘビロテ!)まさか外では超人見知りの私が、家ではこんな事してるなんて誰も思わないだろうな。。笑
久保田早紀の"異邦人"を耳コピしてピアノで弾いていたのは、確か小6だった。YouTubeもウォークマンもない時代、テレビを観ながら歌詞をメモする私を見て祖母がレコードを買ってくれたっけ。

学校では澄ました顔で大人しい女の子をやっていたけど、心の中は熱い熱い思いでいっぱいの少女だったんだ…。

…などと、今作を観終えてから色んな思い出が頭を巡る。。

私の青春時代、音楽の原体験はYMOのメンバーであった坂本龍一=教授の影響もきっと色濃く受けているなぁ、、と改めて思う。

さて、今作。
2012年から5年間の坂本龍一の足跡を辿ったドキュメンタリーである。
東日本大震災以後、やはり私達日本人はそれまでの価値観をぐわーんと揺さぶられざるを得なかった。
坂本龍一も一人の音楽家として、自分に何ができるのか?突き詰めて考え、そして行動した。

作中、彼は色々なことを語っているけれど原発再稼働反対の話、震災にまつわる話については敢えて詳しく書かない。

普段は寡黙な彼が大勢の人の前で、主義主張を唱える日が来るなんて、誰が思っただろう。。
事態はそこまでひっ迫していると判断したのだろう。

そして、私の心の針がぐわっと動いたのは被災地の体育館で彼が弾く"戦メリ"="戦場のメリークリスマス"のテーマ曲を聴いた時。
理屈でなく、言葉でなく、音に癒された瞬間、、、
被災地の人達の顔に明かりが灯るのが見えた。
劇場には私以外にも鼻をグスグスしている人がいたけど、あれは泣くよ。。
ともすれば、何度も耳にして聴き慣れてしまった旋律が、全く違う響きを持って聴こえた。

後は1978年のYMOのNYライブ。
"ライディーン"じゃなくて"東風"っていうとこが良いよなぁ、、
みんな若い〜!細野さん、美形♡笑 おやおや、キーボードをピロピロ弾いているのは、若かりし頃のアッコちゃんではないか!
いやぁ、、こんな映像が観られるとは。。鳥肌が立った!!

残念ながら1983年のYMO散開以降、私の興味は歌詞のある歌に移って、CMや映画で耳にする以外彼のソロ曲に関してはそこまで積極的に聴いていない。

しかし、今作では映画音楽について結構語ってくれているのが嬉しい。
彼が手がけた、
戦場のメリークリスマス
ラストエンペラー
シェルタリング・スカイ
レヴェナント…
の音楽も映像と共に登場する。
映画界の巨匠達の無茶振りにも音楽家としてのプライドをかけて取り組む姿勢がカッコいい!
一度聴いたら忘れられない、そのシーンと共に人々の耳に記憶される音楽の数々…彼が改めて素晴らしい音楽家であることがわかる。

戦メリではデヴィッドボウイと坂本龍一のあのシーンがチラッと観れたけど、もう一度きちんと作品を観たくなった。。美しいなぁ!("ラストエンペラー"でも俳優としての彼の姿が観れる)

"レヴェナント"では自然の音へのこだわりが色濃く表現されていたのが記憶に新しい。

雨の音を聴く為にバケツを頭に被る教授、お気に入りの音楽ができたら"良いでしょ?"と子どものような顔で笑う教授、スタンウェイ(このピアノがまた良い音色なんだ!)の前に座って音を出しながら曲を作る教授…素敵過ぎて言葉が見つからない。。
こんな65歳、いますかって!
女の人にはだらしがなくて、元奥さんのアッコちゃんも相当苦労したみたいだけれど(まぁ個性の強い音楽家同士の結婚だからどちらがどうとも言えないのだろうけど…)、こういうとこ見せられたらたまんないな、、と思う。
類稀なる才能と恐ろしいほどの茶目っ気と…。
最強だ。。

さり気なく映り込んでいるNYの家が素敵!何から何までがスタイリッシュ!!
薬を飲む水の入った水筒までが…なんともオシャレだ〜
何かを刻む包丁の音に誰か側に良い人がいるんだな、と想像する。

人は大きな病気をするとあとどのくらい自分が生きられるのかを意識して人生観が変わるという。

彼もまたそうなのだろう。

ハイネックで隠していたけれど、喉の手術跡が痛々しい。

しかし"これからもっとちゃんとしたものを残したいと思う"って…

いやいや、既にちゃんとしたもの残しているはず。。


芸術家の飽くなき向上心、、
お見それ致しましたm(_ _)m


時代の流れと共に緩やかに変化していく音楽。
坂本龍一という人が生み出すものからまだまだ目が離せない、、と心の底から思わされたドキュメンタリーであった。
あーさん

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