茶一郎

アトミック・ブロンドの茶一郎のレビュー・感想・評価

アトミック・ブロンド(2017年製作の映画)
4.3
 今作『アトミック・ブロンド』を「強い女性」スパイの映画と言い捨てたくないのは、主人公ロレーンが決して「女性」であるが故、強い訳ではないからであります。彼女はハニー・トラップなどといった自身の女性性を活かすことなく、男性優位であるスパイの世界において男性と互角に交渉し、戦い、そして騙す。
 この『アトミック・ブロンド』は、2017年のエンターティメント表現における男女平等を決定付けるジェンダーレス・スパイアクションとして爽快な一本でありました。

 引くほどに全身アザだらけの体を氷風呂に浸け、男性とも女性とも思えるほどに鍛えられた背中-背筋を画面一杯に映す。思えば、この主人公ロレーンの登場シーンから『アトミック・ブロンド』はジェンダーレスな世界観を確定させていました。
 その『アトミック・ブロンド』におけるルールは、「女性のキャラクターを男性と同じルールが適用される状況に置いてみたかった」というロレーンを演じたシャーリーズ・セロン自身の言葉通り、男性と女性は平等であるから、女性を男性に、男性を女性に置き換えても物語が成り立つということです。主人公ロレーンはセクシーであるけどセクシャルではない、か弱いが強い、そして彼女の恋愛セックス描写においてもシャーリーズ・セロンがアカデミー賞を受賞した『モンスター』を想起させるほどジェンダーレスを貫くのでした。

 さて今作『アトミック・ブロンド』、ベルリンの壁崩壊前後の混沌としたドイツを舞台に、各国のスパイがリストアップされているという「リスト」の奪い合い、スパイ合戦を描きます。
 全編グラフィカルな画作りは原作がグラフィック・ノベルとであるのと同時に、監督デヴィッド・リーチ氏が共同監督を務めた『ジョン・ウィック』またその続編と同様の印象を受けます。
 特筆すべきは客席まで痛みが伝わるアクション。後半のKGB(ソ連諜報員)との7分半にも及ぶワンカット(風)アクションは、二週間かけて撮影した映像を繋げたという今作の白眉。監督が代表でもあるアクション・デザイン会社「87イレブン」による現行ハリウッドでトップクラスのアクションを見せてくれました。

 ディズニー・アニメーション『モアナ』が非恋愛至上主義社会において、恋愛ではなく自ら冒険を選択するプリンセスを提示し、『ワンダーウーマン』で初めて女性ヒーロー単独主演映画が大ヒットを飛ばした2016年後期から2017年。そして、それらの映画群の先駆けとして『マッドマックス 怒りのデスロード』でジェンダーレスな英雄フュリオサを演じたシャーリーズ・セロンがジェンダーレス・スパイを演じ、男性の世界だったスパイ・アクションに突撃。
 今作『アトミック・ブロンド』は、エンターティメントにおける男女平等化を決定付けたエポッキメイキングな一本として記憶されます。
茶一郎

茶一郎