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全員死刑のKKMXのレビュー・感想・評価

全員死刑(2017年製作の映画)
3.9
めちゃくちゃエネルギーがあってグイグイ迫ってくるなかなか面白い映画でした。しかも力技で押し切ることなく、作りが丁寧で独りよがりにならないバランス感覚もあります。えげつない事件をポップなエンタメに昇華するなんていう離れ業をやってのけており、小林監督スゲー!と感心するばかり。

事件は強烈ですが、登場人物はおしなべて小物です。例えば冷たい熱帯魚のでんでんのような、凄まじい狂気を持った登場人物は不在です。
首塚家は才覚のないヤクザ一家で、搾取され続けて困窮し、切羽詰まって暴走しただけ。そんなどうしょうもない悲惨さを感じました。

そのため、伝わってくるのはなんとも言えない貧しさ。金銭面はさることながら、教育が貧しくて強殺以外の手段がわからず、人的資源が貧しくて頼る人がいない。親の代からの総合的な貧困が連鎖しており、精神的な貧しさから抜け出すすべを知らない。
なので彼らに感じるのはむしろ悲しみでした。歪ではあるが家族愛も感じるし、根っこのところでは母親以外は普通の人たちなのかな、と感じました。臆病な(たぶん繊細な)兄貴に人の良い弟なんて、まっとうな家庭に生まれていたら感じのいい優しい兄弟になっていたかもしれない。
だからか、笑える場面はおかしみはあるけど、笑うことはできなかったのです。場にふさわしくない修羅場でのギャグなどは、恐怖と直面しないように麻痺させるためにやってる印象を受けました。

あと、物語が進むにつれ、弟タカノリがどんどん修羅の顔になっていくのが胸に迫りました。殺めることの恐ろしさがめちゃ伝わる。その後に怯えて悩まされるのもリアル。

また、被害者家族も、もともと虚無っぽい印象です。殺されるのは当然最高に不幸だけど、なんか家族の断絶があるような印象。弟の「バカを見ると安心」とか、母親の兄貴に色目を堂々と使う、など。何か荒んでいる。そして、産廃業者の「ひみつ」は一番胸糞悪かったかも。
登場する人々がみな本質的に貧しい印象を受けました。やはり悲しいし、苦しい。だからこそ、観甲斐のある映画だったな、という感想を持ちました。

主人公タカノリを演じた間宮祥太郎は華があり、彼がいたからポップになった印象。あと、兄貴役の毎熊克哉さんははじめて見たのですが、異常にハマっていた。ビビり方が物凄くみじめで、天才的なチンピラ俳優だと感じました。
それから、パトラが最高に妖艶でものすごく衝撃受けました。清水葉月よりも100倍エロく感じた。鳥居みゆきのことは今まで気にしたことはなかったのですが、今ではすっかり気になる人になってしまった。
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