岡田拓朗

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

3.9
第二次世界大戦において、ウィンストンチャーチルが首相になってから、ダイナモ作戦の決断に至るまでの真実の物語。
まさしくその決断に至るまでの過程も目を見張るものがあるが、それよりも首相になってから明らかに変わっていくチャーチルの姿に、より感動を覚えた。

チャーチルは政界内では嫌われ者であるように見えた。
過去に失策も起こしており、中には呆れるような目で見るものもいた。

第二次世界大戦でヒトラー率いるナチス・ドイツの勢力が拡大し、フランスは墜落間際、イギリスにまでも侵略の脅威が迫っている中、誰も担いたくないこの激動の時代の首相をすることになったのは、決して華やかな理由からではなかったであろう。

そもそもチャーチルは偏屈で当たりが強く、ミスがあればすぐに怒鳴りつけるような人柄であった。
おそらく歳を重ねることに変わっていった部分もあるのだろう。
唯一の味方のように見え、チャーチルのことをずっと支えていた妻クレメンティーン。
時折チャーチルに檄を飛ばしながらもなだめたり、(叱咤激励で)まさにチャーチルが変わるきっかけを与え続けていたのは彼女だった。

たが、首相になることを機に、チャーチルが変わっていくことで、周りからの目も変わっていく。
何よりも人に頼ることが苦手で、偏屈で嫌われていた彼だったが、国のために悩みもがきつつ、自身の選択が正しいかどうかわからず、葛藤に揺れ動く中で見えてくる人間らしさ(弱さ)。
そんな中、妻のみならずチャーチルを支えようとする人が秘書エリザベスはじめ、だんだんと増えていき、様々な人を動かしていく存在になっていく。

組閣したメンバーの中には、彼とは異なる意見(和平交渉)を持った者もいたが、最後に立ち向かう選択に一致団結できたのは間違いなく彼の国に対する想いが周りを動かしたのと、しっかりと他の意見も受け入れた中で出した答えであったことが伝わったからではないかと思う。

人が変わること、重要な選択にはそれなりの覚悟がいる。
その覚悟は歳を重ねるごとに、普通であれば失態を恐れて覚悟を持てずに、無難な方向に舵を切りたくなるはずだ。

それでもチャーチルは、答えがない選択の中で、自分の意志を信じつつも、他の意見を受け入れつつ、彼なりの正義の選択をし、それがいつのまにか大きい民意かのように、全員の心を動していた。

それがこの時代のイギリスにおいて、正しかったか正しくなかったかはわからない。
そもそも答えがあるような選択でもない。
むしろ、どちらを選択しても戦争の真っただ中な時点で、何一つ被害がなくなるということはない。

そんな中で出す選択は、想像を絶するほど難しいものであるのはもちろんであるし、未来志向を持ちながら様々な意見を取り入れつつ選択していくチャーチルの姿勢には、組織において重要な選択をすることの参考になる部分が多かったのではないだろうか。

歴史を変えるような選択をする人は意外とこういう人だったりする。
もちろん何か秀でてるものがあるのかもしれないが、いつもの生活を見ていたらあんなことを成し遂げるなんて思いもしない。

また、ダイナモ作戦を決行する選択をして、ドイツに勝ったからよかったものの、負けていたらこのように英雄として語られることはなかったであろう。
彼が戦後に選挙で負けたことも何かを意味しているのかもしれない。

何かをきっかけにこのように伝説のリーダーや英雄となることもある。
そんなことも色々と考えられる作品でした。

成功があがりでもなければ、失敗が終わりでもない。肝心なのは、続ける勇気である。

勇気とは、起立して声に出すことである。勇気とはまた、着席して耳を傾けることでもある。

資本主義の欠点は、幸運を不平等に分配してしまうことだ。社会主義の長所は、不幸を平等に分配することだ。

誠実でなければ、人を動かすことはできない。人を感動させるには、自分が心の底から感動しなければならない。自分が涙を流さなければ、人の涙を誘うことはできない。自分が信じなければ、人を信じさせることはできない。

過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せるだろう。

大切なことは、力のない人の言葉が認められることである。

P.S.
ゲイリーオールドマンのアカデミー賞主演男優賞は納得。
メイクアップ&ヘアスタイリング賞の辻一弘の技術もさすがでした。
岡田拓朗

岡田拓朗