鋼鉄隊長

孤狼の血の鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

孤狼の血(2018年製作の映画)
4.5
大阪ステーションシテシネマにて鑑賞。

【あらすじ】
昭和63年、広島呉原市ではヤクザの抗争が起ころうとしていた。そんな中発生した金融会社員の失踪事件を、マル暴の大上刑事は新人の日岡と組んで追うこととなる…。

 最近の映画は開幕直後に仕掛けてくる。東映お馴染みの「荒磯に波」のオープニングが、今回はなんと旧バージョン!! 銀幕のざらついた質感と合わさり、劇場は一気に70年代へと吹き飛ばされた。『仁義なき戦い』(1973)や『県警対組織暴力』(1975)が映画に殴り込みをかけた、あのギラギラしていた時代に。
 東映のロゴだけで満足していると、その余韻を邪魔するように響く豚の鳴き声。映画はまだ始まったばかりだと気づき、心を落ち着かせる。しかし、これから起こるであろう鮮血ほとばしる暴力の応酬に胸躍らせていると、まさかの肩透かしを食らった。あれ?思ったより画がおとなしい。いきなり強姦と切り落とされた腕を見せつけた『仁義なき戦い』には遠く及ばない暴力表現。取調室での性交も、ほのめかす程度にとどまっている。変に期待したのが間違いだったのかと、序盤から諦めモードに入っていたが、この考えはものの見事に打ち砕かれた。
 話が進むにつれて加速する暴力の応酬。隠すことの無い品の悪さ。暑苦しいオッサンの顔。序盤はほんの肩慣らしにすぎなかったのだ。観ていると逃げ出したくなるような、生々しい暴力の数々。さっきまで威勢が良かったチンピラが、血まみれになるまでボコボコにされる。『県警対組織暴力』で川谷拓三が半殺しにされた「取調室での暴行」のような過激さが、この作品では至る所に潜んでいる。それを、どぎつい角度の撮り方と、落ち着いた声のナレーションがさらに盛り上げる。『アウトレイジ』すら裸足で逃げ出す、これぞ正に正真正銘のヤクザ映画だ!!
 そしてそんな中で光り輝く松坂桃李がとにかく良い! 暑苦しい画の中にいるだけで、雰囲気がガラッと変わる。その爽やかさは、まるで焼肉屋の冷麺のようだ。物語の中で成長する彼の姿は、ヤクザ映画に新しい風を吹き込んでいる。
 こんなにスカッとする日本映画は久々だ。えげつないものを観たのに、鑑賞後は不思議と清涼感すら感じる。東映ヤクザ映画の華々しい凱旋! こう言う映画こそシリーズ化してもらいたい。
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