リッキー

孤狼の血のリッキーのレビュー・感想・評価

孤狼の血(2018年製作の映画)
4.1
958本目。190218
原作が「盤上の向日葵」で直木賞を受賞した柚月裕子さんの作品だとは知りませんでした。盤上の向日葵は大変面白く読ませてもらいましたが、さすがに女性作家によるこの手の物語だと、かなり繊細で暴力シーンも淡白なのだろうと思いきや、全体的にかなりハードでバイオレンスな作品だと感じました。

昭和63年の暴力団対策法成立直前の広島が舞台です。冒頭から伊吹吾郎や、「千葉真一」を彷彿とさせる竹之内豊などが登場し、「仁義なき戦い」を思わせるシーンが多数あり、期待が高まりました。

主人公の大上(役所広司)は刑事としてはかなり異質です。警察組織からも疎まれて、平気で暴力団事務所には出入りはするし、取り調べも密室での殴る蹴るのオンパレードで、いつ告発されてもおかしくない状況です。味方であるはずの県警では要注意人物としてマークされており、その尻尾をつかむために新人刑事の日岡(松坂桃李)が大上とバディを組んで密かに内定しています。

当時「加古村組」と「尾谷組」との暴力団による抗争が激化していましたが、大上は尾谷組に肩入れしているように見せかけて、巧妙にパワーバランスの調整をしているように見えました。どんな世界でも一つの勢力が独占してしまうと社会は乱れます。暴力団の潰し合いにより暴力団が「ゼロ」になることが望ましいですが、空いたポストには必ず違う組織が進出してきます。ライバルが牽制しあうことにより均衡が保たれて、お互いに無茶をすることも減り、犠牲者も少なくなります。その結果、市民も安心して暮らせる社会になるというのが大上の理屈です。

ラストシーンでの日岡の行為は正しく大上から受け継いだもので、双方のトップを潰してしまえば、今後の抗争は沈静化するとの読みだと思われます。

作品のタイトル「孤狼の血」は上手なネーミングに思えました。
自分を犠牲にして消えていく狼(大上)とその血を受け継いだ新しい狼が誕生したことで、彼らが絶滅することはないということを意味しているのだと理解しました。
続編が映画化されるとか…ぜひ実現してほしいと思います。
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