ベルサイユ製麺

ルージュの手紙のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ルージュの手紙(2017年製作の映画)
3.5
…死すら覚悟して一人、大きく息を吐いて集中。
いつもの様にゆっくりとソリに横たわろうとした時、シートの上に手紙が置かれている事に気がついた。封筒にはかつてのボブスレー時代の、そしてプライベートに於いてもパートナーだったイヴォンヌの名前、そして小さく「試合が終わったら読んで」と書かれている。かつて何度も目にした、懐かしいあの字で…。
思えば止む無くこの競技に鞍替えして以降、滑走、練習、また次の滑走と、ひたすらに一人きりで突っ走ってきた。イヴォンヌの影を振り払う様に。そうするのが正しいのだと思い込もうとしていた。
でも今なら分かる。それは哀しみの過去を抜け、再び彼女に出会うためのイニシエーションだった。今日、このコースを最高の走りで滑りきり、ゴールを切った瞬間からが本当のスタートなのだ。この、“そりに先に足を乗せる状態で仰向けに乗って氷上を滑る速さを競うウィンタースポーツ”で!

『リュージュの手紙』 完 🛷

さて、
『ルージュの手紙』の方ですが、これがもう凄く大人の映画でございまして、精神年齢が実年齢の1/4位の自分にとってはなかなか真芯を捉えるのが困難な作品なのでした。

ベテランで腕の良い助産婦(劇中の言い回しのママ)として働くシングルマザーのクレール。ある日、今は亡き父の後妻、血の繋がらない母であるベアトリスから電話がある。ソリ🛷が合わず何十年も連絡を絶っていたのに…。
久しぶりに会っても、ナチュラリストで保守的なクレールと自由奔放なベアトリスはやはり噛み合わない。そもそも母としてのベアトリスは私と父を捨てたのだ。一刻も早く自分の生活に戻りたくてイライラを募らせるクレールにベアトリスが打ち明けた話は…

てな感じ。
複雑な成り立ちの母と娘のお話です。ネタバレを若干気にしつつ書きますと、ベアトリスにはこのタイミングで会いに来るなりの理由があり、その理由により2人の距離感は微妙に変化していきます。全体的にはコメディ要素があるものの暖かな人間ドラマといった風。かと思えば、底冷えするようなキツい描写もあり…。
テーマは完全に“母と娘、と父”なので、この構図の中に自分の居場所が見つからない場合は物語に少し入り込みにくいと感じるかもしれません。
因みに自分の場合は、家族全員とあまり折り合いが良くないので、クレールとベアトリスみたいに言いたい事を言い合える関係は、それが例え諍いであったとしても羨ましく思えてしまった。終盤で2人が或るスライドを一緒に見るシーンが有って、それが楽しそうでねぇ…。
心の動きの少ない代わり映えのしない生活と、心のままの波乱に富んだ不安定な生活。向き不向きは有っても、どっちが良いなんて言えないですよね。自分は代わり映えのしない生活しか選べないけど、もし誰かを愛せたり、誰かに許されたりするのなら、少しぐらいしんどくても変わるべきかな、なんて考えたりするけど…。

奔放な母ベアトリス役にカトリーヌ・ドヌーヴはもう完璧なハマり役!一方、現実的で神経質な娘クレール役のカトリーヌ・フロも非常にリアリティがありました。個人的には『偉大なるマルグリット』での印象くらいしかなかったのですが、ホントに良い役者さんですね。心理の変化の演技が抜群。
クレールの息子役のカンタン・ドルメールは、これ以上ないくらいのフランスの若者!ヒゲ!!
そして、クレールの恋人にオリヴィエ・グルメ!この人大好き!面白いお顔のおじちゃんだよー。この風貌をカッコいい枠に入れてしまうフランス人の美意識のレンジの広さ、豊かさよ!彼らにはどうやっても追いつけっこ無い。

漠然と、この作品は日本で言えば山田洋次作品みたいな位置付けなのかなと思いました。本当の良さが分かるにはまだまだ時間がかかりそうかな。それまで映画を見続けなければね。
…それにしてもフランスって、どこに行っても誰と会ってもワイン進めてくるんだなぁ。コーラの方が好きな自分にはやっぱり難しい映画でしたー。うむ、やはりペプシは黒に限る。しゅわわ〜。